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This blog is Written by 小林 谺,Template by ねんまく,Photo by JOURNEY WITHIN,Powered by 忍者ブログ.
徒然なる、谺の戯言日記。
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 20 謝れ!!


 コホン、とガゼルが咳払いを1つ。

「それで、コハク。聞きたい事があるんだが」
「おお、尋問ってヤツだな。オレにわかる範囲ならどんと来い! ―――つーか何で捕まってんのかわかんないんだけどさ」
「………お前と一緒にいた女の事だが」
「琳ちゃん?」
「そういう名前なのか?」
「えーと…。名前は、琳子だけど」
「リンコ。―――輪なる淵より出でし者、か。なるほど、どうやら間違いないらしい」
「………何が?」
「お前は一緒にいたそうだが。その者は、ここで何をすると言っていた?」
「ここで? 琳ちゃんが?」
「そうだ」
「別に」
「は?」
「別に、何も。だって、いきなりこんなトコ出ちゃって右も左もわかんないし、これからどうしようって話をしてた。最初夢かと思ったし、でも夢じゃないっぽぃし」
「………それは、本当か?」
「うん。ああ、そういえば! オレ、琳ちゃん崖から突き落としちゃったんだよ、大丈夫かなっ!? 無事かな? オレ、どうしよう。琳ちゃんがいないと…っ!」
「その女なら、無事だろう。神聖レシル王国の宰相が直々に連れて返ったそうだからな」
「しんせいれしるおうこく?」
「そうだ」
「連れ帰ったって、誘拐!? え、琳ちゃんも攫われてんの!?」
「そうではないだろう。元々、お前達を呼んだのは、その宰相どもだ」
「………そうなの?」
「ああ」
「何で?」

 何気なく問い掛けた琥珀のその科白に、それまで和らいでいた―――どちらかと言えば、和やかというよりは苦悩といった風だったが―――顔が、途端に険しくなった。

「―――我々をこの地から追い出そうとしているのだ」

 ややあって、酷く重い口調でガゼルは答える。

「確かに、国ではないし、規模を見れば小さな集落に過ぎない。それでも、このエリシオール大陸のこの地に長く住んで来た者達ばかりだ。交流も友好なものだったというのに、今になって侵略しようなどと」
「侵略!?」
「そうだ。3柱の住む地の間近に、国に属すでもなく、他国に属すでもなく存在する地などあってはならぬと。ただし、まともに遣り合っても負けないまでも自国の力を削ぐ事をわかっていて、お前達を呼んだのだ」
「まさか! オレも琳ちゃんもそんな事しないよ!?」
「それは、お前が何も知らないから言える科白だ! あの宰相に連れて行かれた女は 「琳ちゃんは絶対しない!」

 声を荒げたガゼルの声を遮るように、琥珀が怒気を孕んだ叫びを上げる。

「確かに、琳ちゃんは、やられたらやり返すけど。でも、理由もなく誰かを苦しめるような事はしないし、暴力で解決しようなんてしない。琳ちゃんは、誰とだって話をして分かり合おうとする。勿論、他人と完全に理解し合うなんて無理だけど、それでも、琳ちゃんは相手の言い分も聞かないでそんな事したりしない。絶対に」
「なら、奴等が、勝手な話をでっち上げたらどうだ?」
「え…?」
「我々が、人々に危害を加えていると。国を攻め滅ぼされるとでも言えば?」
「………それは。でも、実際そういう事しない限り琳ちゃんは動かないし、―――――もし、そう言われたって、きっと琳ちゃんなら、本当にそうなのか自分で確かめる筈だ」
「どうだろうな。口で言うのは簡単だ」
「絶対っての! オレ、命だってかけられるね、琳ちゃんの事なら」

 強い核心の眼差しでガゼルを見やり、断言した。

「そうか。なら、その命、その女が攻めてきたら最初に落としてやる」

 淡々とした声で返したガゼルの科白に、琥珀は一瞬だけ硬直してから、得意げな笑みを浮かべ、

「いーよ。ただし、琳ちゃんが攻める訳じゃなくて、話をしに来た場合、お前、謝れよな」

 そんなすっとんきょうな科白を口にした。
 ガゼルが一瞬呆けたのも仕方ないのかもしれない。

「………何? 何でオレがお前に謝る必要がある」
「オレにじゃねーよ!!」
「は?」
「琳ちゃんに! オレ、絶対怒られるから、お前も一緒に怒られろって言ってんだよ! あんな状況になって、琳ちゃん助けもしないで、しかも捕まって連れてかれちゃってんだよ? 絶対、琳ちゃん怒ってるに決まってんだから。だから謝るんだよ。本当はオレを連れて来たヤツが1番いいんだけど。お前、責任者なんだろ? だから当然じゃね?」
「何でそんな事でオレが頭を下げないといけないんだ。捕まった間抜けはお前だろうが」
「ぐっ…! それは、そうだけどっ」
「第一、来るかどうかもわからないような 「来る!!」

 ぐっ、と琥珀は両の拳を力いっぱい握り締める。

「オレがここにいるってわかれば、絶対来る!」
「確かに、お前を助けに来るだろう。もとより、それが狙 「違っ! 全然違う!!」

 何を当然、といった顔で告げるガゼルの科白を渾身の叫びで遮ってから、がっくりと項垂れ、

「オレを怒りに来るに決まってんじゃん。琳ちゃん、絶対怒ってるんだから」

 弱々しく告げる声は、本気で弱りきっていた。
 その様子に、ガゼルは当惑した、というよりは困惑したといった方が正しい顔をしてみせる。

「オレのが全面的に悪いだろうし、あの状況だと………。大体さ、そんな話に琳ちゃんが乗ると思う? こっちの都合だってあるとか何とか言って、今すぐ帰るとか言うだろうし。でも、オレがこっちにいるから帰るに帰れないだろうからさ。そうなると、やっぱりオレが怒られる訳で………」

 ぶちぶち項垂れて呟く姿に、ガゼルは眉間に皺を寄せた。
 これまでに得ていた情報と琥珀の語った話とを照らし合わせてみると、全く符合しない。
 訝しく思いつつ、ガゼルは思考を打ち消すように頭を振った。

「とにかく、オレの用事はそれだけだ」

 淡白に告げて、顔を上げた琥珀を一瞥し、肩越しに振り返る。

「部屋へ戻しておけ。下ではなく、上の奥だ」
「■■■■■■■■?」
「ああ。それと、キィを呼んでくれ」
「■■■■、■■■■■■?」
「ああ」
「■■■■■」

 執事が答え、一礼し、扉の外へと出て行った。
 それを見送って向き直ったガゼルは、自身を茫然と眺めている琥珀と眼が合う。

「やっぱ、あんたのはわかるけど、あっちのはわかんなかった」

 ぽつり、と今更な感想を口にした。



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