徒然なる、谺の戯言日記。
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16 それでもマトゥ
去り行く背を見送って、安堵の息をもう一度吐き出す。
何ていうかツッコミ所は満載なんだけど。
一番は自分に対して…。
「…何でこんな事に」
呟きつつ、額に手を当てて。
いや、思うだけ無駄だって事はもうわかってるんだけれども。
思わずにはいられないのだ。―――何でこんな面倒な状況に、と。
「りーんーこーさーまーっ!!!!!」
この状況では余り聞きたくない声が聞こえた。失礼かもしれないけど。
顔を上げてその方向へと向き直ると……何だろう、凄い満面笑みを浮かべたリエが左手を大きくぶんぶん振りながら走って来る。
こちらへ向かって。
「りーんーこーさーまーっ!!!!!」
疲れないのかな、あの走り方…? っていうか、聞こえてるからその大声辞めて、お願い。
少しだけ顔が引き攣るのも仕方ないと思いつつ、軽く右手を上げて手を振り返す。
途端、満面の笑みが嬉しそうなそれに変わって。
「りんこさまーっ!!!!」
いや、だから叫ぶなと。
必然的に、それに呼応するように人の目がこっちに向いてしまう訳で。
すぐ傍まで走り寄ってきたリエは、立ち止まって肩を上下させてはーはー言ってるし。
やっぱり疲れるよね…あんな走り方の上に、そんな大声出してたら。
「リ、リンコ様、お怪我は!?」
「ないよ。…リエの方が大変そうなんだけど?」
「わ、私は…その、大丈夫です」
肩はまだ上下してるし、呼吸も荒いけどね…。
「それで、ここまで来たのに悪いと思うけど。もう終ったから」
「え……」
「帰ろうと思ってたところ。わざわざ来てくれたのに、悪いけれど」
「え、あ…そうですか」
途端、しゅんっとした顔になって。
やっぱりこのコ、琥珀に似てるかもしれない…。
「―――でも、来てくれて助かったかも。道を確認しないで来たから、正確に道順を覚えてなくて迷ったかもしれないから」
肩を竦めてそう言った科白に、花が咲いたように明るい笑顔を浮かべる。
「はい。では、お戻りになられるんですね?」
「そうなるかな? とりあえず……火柱は他では上がっていないようだし」
「ここに来る間に魔族の方をお2人だけしかお見かけしてませんので、大丈夫だと思います」
「2人?」
「ええ、気絶されている方と、壁に綺麗に埋まっている方と」
笑顔で返った科白に、思わず苦笑いを浮かべる。
忘れていたのに。
「………他にもいなかった?」
「はい、おりませんでした」
はっきりと返った科白で、後から出てきた3人は逃げたのだろうと勝手に予想する。
後なのに、前2人…―――いや、最初の1人だけに言うなら、上からの落下の衝撃があったんだからそう簡単に眼を覚ましたりはしないだろうけれども、壁に埋まってるのと合わせて、まだ意識が戻らないとは。
手加減が難しい、と改めて思う。
日常生活にも支障を来たしそうな気がするんだけれども、コレ。
「リンコ様、どうかなさいましたか?」
「ううん、別に何でもない。少し話も聞きたいから、戻ったらお茶でも飲みながら落ち着きたいかな」
「わかりました。美味しいお飲み物をご用意致しますね! …リンコ様、暖かいのと冷たいのはどちらがお好みですか?」
「そうね、暖かい方がいいかな」
「はいっ!」
連れ立って歩き始めたとろこに、さっきの神官服の1人が駆け寄って来る。
「リエ様」
「………あ、マナムーさん。こんにちは。お勤めご苦労様でした」
ぺこり、と頭を下げるリエ。
「いえ、そのためにおりますから。………あの、リエ様」
「あっ! リンコ様、ご紹介します。こちら、マナムーさんです」
「…マナムー=テットンです。宜しくお願いします」
ぺこりと神官服、もとい、マナムーさんは頭を下げる。
余り関わり合いたくないような気もするんだけれど、疲れそうで。
さっきのアレを見てしまった後なだけに。
「それで、マナムーさん。こちら、リンコ様です」
「リンコ=マツナミです。こちらこそ宜しくお願いします」
「リンコ=マトゥナミ様とおっしゃられるんですか。ゆ……あ、いえ、何でもありません」
松がマトゥになってる事に疲れを覚えつつ、引き攣った笑みを浮かべるマナムーさんに軽く一礼した。
「あ、マナムーさん。おわかりと思いますけど、リンコ様が勇者様なんです! でも、そう呼ぶのはダメなので、リンコ様って言って下さいね」
勇者、その単語をリエが口にした瞬間、マナムーの顔から血の気がサッと引いた。
先ほどの光景を見てたら仕方ない反応かもしれないが、そこまで怯えなくてもいいと思う。
………それとも、当然の反応?
「え、あ、はい。そこは勿論。重々理解しております、リエ様」
「わ、本当ですかー。流石はマナムーさん、お耳が早いですねっ」
「いえ、大した事では…」
言いよどんでコチラをちらりと見やる。
殴ったりはしないから、そこまで怯えなくても………。
確かに、殴るって言った気はしないでもないけれど、本当に殴る訳ないのに。
例外を除いて。
「あの、それなら、リンコ様のお世話は、リエ様が?」
「はいっ!」
「そうですか。そうなると、リエ様の後任の方は……?」
「エル様が」
にこにこと告げられた呼称に、マナムーさんの顔が、というか動きが止まった。
そういえば、エル様って前にも聞いたけれど、誰なんだろう。
きちんと話を聞いてないのに飛び出しちゃったから、身内会話………とは、多分、違うだろうけど、そっちの話には付いていけない。
「元々、ミエルファ王女様の護衛は私以外にもおりましたから、問題ありません」
「護衛?」
「はい。あ、そういえば、リンコ様には詳しいお話がまだでしたね」
「うん。………とりあえず、戻ってから、お茶でも飲みながら教えてくれる?」
「わかりましたっ」
「ああっ!? お引止めしまして申し訳有りませんっ!」
ずさっと後ずさる。
………怯えられてる、完全に。
「別に気にしないで下さい。こちらこそ、先ほどは名乗らずに失礼しましたので」
「滅相もございません。後ほど、きちんとご挨拶に伺います」
「いえ、そこまでして貰わなくても…」
「そうですよー。それに、マナムーさんはこれから復興作業があるからそんな暇ないですよ、きっと」
暢気な声で告げたリエに、場の空気が固まった。正確には、マナムーさんの時間が止まった感じだけど。
うん、この子、空気読めないっていうか、読む気ない子に違いない。
1人納得し、マナムーさんに向き直って苦笑する。
「作業、頑張って下さいね」
「有り難うございます」
へこーっと頭を下げて踵を返した。
その背を見送るリエが、クスクス笑う。
「マナムーさんって本当に真面目なんですよ」
「確かに、そんな感じはするね…」
丁寧、というか。
「さて、それではリンコ様。戻りましょうか。お洋服の採寸もしないといけませんから」
「………採寸?」
「そうです。お洋服の話は、しましたよね?」
「うん。………そっか、そう、だよね。測るんだ…」
「はいっ。リンコ様、何着ても似合いそうですから、羨ましいです」
「いや、そんな事はないと思うんだけど……」
特に、アナタが今着ているような服は。
「そんな事あります! 愉しみですし、服飾師さんもきっと喜びます。作りがいがあるでしょうから」
「作っ………って、そこまでして貰わなくても」
「そういう訳にはいきません。流石に今すぐ着る物は既製品になりますけれど、リンコ様にはきちっとリンコ様だけのお洋服をご用意します。むしろしないといけません。失礼になります!」
拳を握り締めて力説するリエ。
何をそこまで熱くなるんだろうと疑問に思ったが、突っ込まずに曖昧な笑みを返した。
その後、城に戻った私が、リエから子供に解くようにこの世界の話を聞く事になるのだが。
私が些細な疑問を投げるたびに、白熱したリエが熱く語り返しては話が逸れ、結局、深夜遅くまで寝かせてもらえなかったというオチが付いた。
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去り行く背を見送って、安堵の息をもう一度吐き出す。
何ていうかツッコミ所は満載なんだけど。
一番は自分に対して…。
「…何でこんな事に」
呟きつつ、額に手を当てて。
いや、思うだけ無駄だって事はもうわかってるんだけれども。
思わずにはいられないのだ。―――何でこんな面倒な状況に、と。
「りーんーこーさーまーっ!!!!!」
この状況では余り聞きたくない声が聞こえた。失礼かもしれないけど。
顔を上げてその方向へと向き直ると……何だろう、凄い満面笑みを浮かべたリエが左手を大きくぶんぶん振りながら走って来る。
こちらへ向かって。
「りーんーこーさーまーっ!!!!!」
疲れないのかな、あの走り方…? っていうか、聞こえてるからその大声辞めて、お願い。
少しだけ顔が引き攣るのも仕方ないと思いつつ、軽く右手を上げて手を振り返す。
途端、満面の笑みが嬉しそうなそれに変わって。
「りんこさまーっ!!!!」
いや、だから叫ぶなと。
必然的に、それに呼応するように人の目がこっちに向いてしまう訳で。
すぐ傍まで走り寄ってきたリエは、立ち止まって肩を上下させてはーはー言ってるし。
やっぱり疲れるよね…あんな走り方の上に、そんな大声出してたら。
「リ、リンコ様、お怪我は!?」
「ないよ。…リエの方が大変そうなんだけど?」
「わ、私は…その、大丈夫です」
肩はまだ上下してるし、呼吸も荒いけどね…。
「それで、ここまで来たのに悪いと思うけど。もう終ったから」
「え……」
「帰ろうと思ってたところ。わざわざ来てくれたのに、悪いけれど」
「え、あ…そうですか」
途端、しゅんっとした顔になって。
やっぱりこのコ、琥珀に似てるかもしれない…。
「―――でも、来てくれて助かったかも。道を確認しないで来たから、正確に道順を覚えてなくて迷ったかもしれないから」
肩を竦めてそう言った科白に、花が咲いたように明るい笑顔を浮かべる。
「はい。では、お戻りになられるんですね?」
「そうなるかな? とりあえず……火柱は他では上がっていないようだし」
「ここに来る間に魔族の方をお2人だけしかお見かけしてませんので、大丈夫だと思います」
「2人?」
「ええ、気絶されている方と、壁に綺麗に埋まっている方と」
笑顔で返った科白に、思わず苦笑いを浮かべる。
忘れていたのに。
「………他にもいなかった?」
「はい、おりませんでした」
はっきりと返った科白で、後から出てきた3人は逃げたのだろうと勝手に予想する。
後なのに、前2人…―――いや、最初の1人だけに言うなら、上からの落下の衝撃があったんだからそう簡単に眼を覚ましたりはしないだろうけれども、壁に埋まってるのと合わせて、まだ意識が戻らないとは。
手加減が難しい、と改めて思う。
日常生活にも支障を来たしそうな気がするんだけれども、コレ。
「リンコ様、どうかなさいましたか?」
「ううん、別に何でもない。少し話も聞きたいから、戻ったらお茶でも飲みながら落ち着きたいかな」
「わかりました。美味しいお飲み物をご用意致しますね! …リンコ様、暖かいのと冷たいのはどちらがお好みですか?」
「そうね、暖かい方がいいかな」
「はいっ!」
連れ立って歩き始めたとろこに、さっきの神官服の1人が駆け寄って来る。
「リエ様」
「………あ、マナムーさん。こんにちは。お勤めご苦労様でした」
ぺこり、と頭を下げるリエ。
「いえ、そのためにおりますから。………あの、リエ様」
「あっ! リンコ様、ご紹介します。こちら、マナムーさんです」
「…マナムー=テットンです。宜しくお願いします」
ぺこりと神官服、もとい、マナムーさんは頭を下げる。
余り関わり合いたくないような気もするんだけれど、疲れそうで。
さっきのアレを見てしまった後なだけに。
「それで、マナムーさん。こちら、リンコ様です」
「リンコ=マツナミです。こちらこそ宜しくお願いします」
「リンコ=マトゥナミ様とおっしゃられるんですか。ゆ……あ、いえ、何でもありません」
松がマトゥになってる事に疲れを覚えつつ、引き攣った笑みを浮かべるマナムーさんに軽く一礼した。
「あ、マナムーさん。おわかりと思いますけど、リンコ様が勇者様なんです! でも、そう呼ぶのはダメなので、リンコ様って言って下さいね」
勇者、その単語をリエが口にした瞬間、マナムーの顔から血の気がサッと引いた。
先ほどの光景を見てたら仕方ない反応かもしれないが、そこまで怯えなくてもいいと思う。
………それとも、当然の反応?
「え、あ、はい。そこは勿論。重々理解しております、リエ様」
「わ、本当ですかー。流石はマナムーさん、お耳が早いですねっ」
「いえ、大した事では…」
言いよどんでコチラをちらりと見やる。
殴ったりはしないから、そこまで怯えなくても………。
確かに、殴るって言った気はしないでもないけれど、本当に殴る訳ないのに。
例外を除いて。
「あの、それなら、リンコ様のお世話は、リエ様が?」
「はいっ!」
「そうですか。そうなると、リエ様の後任の方は……?」
「エル様が」
にこにこと告げられた呼称に、マナムーさんの顔が、というか動きが止まった。
そういえば、エル様って前にも聞いたけれど、誰なんだろう。
きちんと話を聞いてないのに飛び出しちゃったから、身内会話………とは、多分、違うだろうけど、そっちの話には付いていけない。
「元々、ミエルファ王女様の護衛は私以外にもおりましたから、問題ありません」
「護衛?」
「はい。あ、そういえば、リンコ様には詳しいお話がまだでしたね」
「うん。………とりあえず、戻ってから、お茶でも飲みながら教えてくれる?」
「わかりましたっ」
「ああっ!? お引止めしまして申し訳有りませんっ!」
ずさっと後ずさる。
………怯えられてる、完全に。
「別に気にしないで下さい。こちらこそ、先ほどは名乗らずに失礼しましたので」
「滅相もございません。後ほど、きちんとご挨拶に伺います」
「いえ、そこまでして貰わなくても…」
「そうですよー。それに、マナムーさんはこれから復興作業があるからそんな暇ないですよ、きっと」
暢気な声で告げたリエに、場の空気が固まった。正確には、マナムーさんの時間が止まった感じだけど。
うん、この子、空気読めないっていうか、読む気ない子に違いない。
1人納得し、マナムーさんに向き直って苦笑する。
「作業、頑張って下さいね」
「有り難うございます」
へこーっと頭を下げて踵を返した。
その背を見送るリエが、クスクス笑う。
「マナムーさんって本当に真面目なんですよ」
「確かに、そんな感じはするね…」
丁寧、というか。
「さて、それではリンコ様。戻りましょうか。お洋服の採寸もしないといけませんから」
「………採寸?」
「そうです。お洋服の話は、しましたよね?」
「うん。………そっか、そう、だよね。測るんだ…」
「はいっ。リンコ様、何着ても似合いそうですから、羨ましいです」
「いや、そんな事はないと思うんだけど……」
特に、アナタが今着ているような服は。
「そんな事あります! 愉しみですし、服飾師さんもきっと喜びます。作りがいがあるでしょうから」
「作っ………って、そこまでして貰わなくても」
「そういう訳にはいきません。流石に今すぐ着る物は既製品になりますけれど、リンコ様にはきちっとリンコ様だけのお洋服をご用意します。むしろしないといけません。失礼になります!」
拳を握り締めて力説するリエ。
何をそこまで熱くなるんだろうと疑問に思ったが、突っ込まずに曖昧な笑みを返した。
その後、城に戻った私が、リエから子供に解くようにこの世界の話を聞く事になるのだが。
私が些細な疑問を投げるたびに、白熱したリエが熱く語り返しては話が逸れ、結局、深夜遅くまで寝かせてもらえなかったというオチが付いた。
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