徒然なる、谺の戯言日記。
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18 現実逃避
どしゃっ、と降ろさ―――落とされて、琥珀は我に返った。
扉が閉じられる音を小さく主張するのを背後に、琥珀は目で周囲を見回した。
廊下だった。
「………どこ?」
思わず呟いてみたら、声が出た。
聞いてみようと顔を上げた瞬間、喉元に刃が当てられて、思わず硬直する。
顔にでっかい目が1つしかない、茶褐色の筋肉ムキムキのスキンヘッドの親父―――琥珀的直感により―――に、睨まれた。
(目、目がいっこしかないっ…)
喉元に当てられた刃の事などすっかり忘れて、その姿を感動の眼差しで眺めた。真性である。
返った反応が怯えたモノではなく、期待に満ちたように輝いた目と表情だったため、一つ目の彼は、若干引いた。
「■■、■■■■■■■■」
「え? 何? 今、何て言っ…」
「■■■■■!」
一つ目の彼の言葉は、琥珀にはさっぱりわからなかった。
ぐい、と襟を引っ張られて無理矢理立たされる。
ぱちくりと目を瞬く琥珀に緊張感という文字は全くなく、その顔は拗ねた子供そのものだった。
「何言ってんだかわかんねーし」
ぼそっと呟いた瞬間、壁に押し付けられる。
「■■■■■■■■!」
上から一つ目で睨むように見下ろされ、琥珀は叫びそうになった言葉を飲み込んだ。
首元にやはり刃が添えられて、大人しくしてないと痛い目に合うという事をやっと理解した。
(こういうのって、言葉って通じるのがお約束なんじゃねーのっ!?)
負けじと睨むようにしながら、口には出さずに内心で叫んだ。
数秒、睨み合ってから、はぁ、と琥珀は息を吐き出す。
(………どこだろー、ここ)
やっと自分の置かれている状況に疑問を抱いた琥珀は、壁に押し付けられたままで視線だけを周囲に走らせる。
何かの建物の内部というのはわかる。
ゴテゴテしい飾りなどなく、どちらかと言うと質素な、けれど、それが洋風の建物である事はわかった。割合広い廊下、高い天井、板張りの造り。
左右に視線を走らせれば、長く伸びる廊下がやはり目に入る。
そして、すぐ左手にある扉。
ごくごく普通の、若干寂れた年代ものの洋館。それが琥珀視点での、感想だ。
そうしてから、何でここにいるんだろうと首を捻るようにして思考を巡らした所で、左手にある扉が開かれた。
「■■■■、■■■■■。■■■■■」
部屋から出て来たのは見覚えのある姿、―――――ああ、ドラゴンに乗ってたヤツだ、と気付き、捕まったんだと今更気付く。
保護されたとは流石に思わなかった。
刃を喉元に当てられたままだし、見覚えのある背中に羽根を生やしたヤツは気難しい顔で琥珀を睨んでいる。
「■■■、■■■■■■■■■」
「■■■■、■■■■。■■■■■■■」
そうして、2人はさっぱりわからない言葉を交わしている。
その様を眺めながら、琥珀は本気で泣きそうになった。
心細いとか、危険を感じてとか、そういう理由ではなく、この未知との遭遇という素敵なシュチエーションにも関わらず、さっぱり言葉が通じないという事実が、意思の疎通すら出来ないというのが、果てしなく哀しかったからだ。
せっかくだから、色々聞きたいのに。思わずそう独り言ちてから、思い切りな溜息を吐き出す。
と。
ぐいっ、と再び引っ張られて、琥珀の思考が2人へと戻される。
顔を上げた琥珀が誘拐犯と目を合わせると、何かを告げられた。勿論、何て言われたか琥珀にはわかりようもなく。
ひらひらと誘拐犯が手を振ったのを合図として、襟をつかまれたまま引っ立てられるようにその場から動くよう促される。
一つ目のスキンヘッドの親父に連行されるように、琥珀は大人しく歩いた。
「あのさ、別に引っ張んなくても歩くよ~?」
「■■■」
やっぱり何言ってんだかわかんない。軽く頭を振ってから琥珀は項垂れた。
相手としても琥珀の言ってる事は理解出来ないのだろう、その証拠に襟は捕まれたままだ。
そのまま廊下の突き当たりを左に曲がり、また歩いて、左に曲がって、階段を降りるよう促される。
がっくりと肩を落としたままそこを降りて。折り返して降りて。また折り返して降りて。
そうした先には、薄暗い、石造りの床の終点があった。
(あー…何か、ここ、地下牢っぽぃなぁ。ゲームとかによくある………)
内心そう呟いて、歩くよう背中を押されて、ちらりと左右を見れば、鉄格子っぽいのがあったりして。
ここらヘンはお約束だなぁ、なんて思っていたら、一つ目の大男―――髪があるし、琥珀視点でスキンヘッドより年は若い気がする―――が立ってる姿が目に入る。
所謂、その場所の突き当たりに位置する場所なのだが。
そこで、背後に立っていたスキンヘッドの親父が、鉄格子の前に立ってた同じ一つ目を会話をし―――
「■■■■■■■■■」
背後からドスの聞いた低い声で何かを言われ、目の前の大男に腕を捕まれたと思った瞬間、引っ張られて牢にぶちこまれた。
危うく顔面から落下するところを何とか受身だけは取って、床が石だから背中とか腕とか痛かったがそれを我慢して文句を口にしようとした瞬間。
がしゃん。
激しく無情な音がして、目をやれば、空いていたはずの鉄格子はしっかりと閉じられて。
その向こうに並び立つ一つ目の親父と大男。
「って、ええええっ!? ちょっと待っ…いきなり!? っていうかお約束だけど、何か違う!! オレはこういうお約束は嫌だーっ!!!!」
絶叫してみるが、その姿を一つ目の2人は一瞥くれただけで踵を返し去って行った。
思わず後を追うように、勢いよく立ち上がって鉄格子に突進すると、そこを掴んで両手に力を込める。
うんともすんとも言わなかった。
格子の継ぎ目がブレる音も、擦れる音も、何もない。
「えええ!? ちょっと待って! 何もナシ!? ていうかこういう時ってさ! もっとこう、何かあるだろーっ!!!!」
去り行く背中が振り返る事はなく。
そのまま2つの背中は階段を上っていった。
「おぉおおーぃっ!! 置いてかないでーっ!!」
声は空しく響き渡り。
返る言葉も声もなく。
琥珀は独り、薄暗い地下牢に取り残される。
その後、声の続く限り叫んでみたが、無駄な努力だと琥珀が理解したのは、いい感じに声が掠れてからだった。
そうしてから改めて肩を落として格子から離れると、奥の壁際―――前方の廊下が見えるような位置―――に腰を降ろして背を預ける。
「喉、痛い」
ぽつりと呟いてから、ごちっと背後の石壁に頭をつけて、双眸を伏せた。
さて、これからどうしよう。
内心そう呟いた瞬間、背筋に物凄い悪寒が走った。
慌てて左右を見回し、それから安堵の息を吐き出す。
「………琳ちゃん、怒ってるな」
悟りきった声を出してから、でも不可抗力だから、と呟いた。
それから琥珀は体育座りになると膝に顔を埋めて、疲れたなぁと呻くように口にする。
暫くそうしているうちに、自然と意識は薄れて行った。
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どしゃっ、と降ろさ―――落とされて、琥珀は我に返った。
扉が閉じられる音を小さく主張するのを背後に、琥珀は目で周囲を見回した。
廊下だった。
「………どこ?」
思わず呟いてみたら、声が出た。
聞いてみようと顔を上げた瞬間、喉元に刃が当てられて、思わず硬直する。
顔にでっかい目が1つしかない、茶褐色の筋肉ムキムキのスキンヘッドの親父―――琥珀的直感により―――に、睨まれた。
(目、目がいっこしかないっ…)
喉元に当てられた刃の事などすっかり忘れて、その姿を感動の眼差しで眺めた。真性である。
返った反応が怯えたモノではなく、期待に満ちたように輝いた目と表情だったため、一つ目の彼は、若干引いた。
「■■、■■■■■■■■」
「え? 何? 今、何て言っ…」
「■■■■■!」
一つ目の彼の言葉は、琥珀にはさっぱりわからなかった。
ぐい、と襟を引っ張られて無理矢理立たされる。
ぱちくりと目を瞬く琥珀に緊張感という文字は全くなく、その顔は拗ねた子供そのものだった。
「何言ってんだかわかんねーし」
ぼそっと呟いた瞬間、壁に押し付けられる。
「■■■■■■■■!」
上から一つ目で睨むように見下ろされ、琥珀は叫びそうになった言葉を飲み込んだ。
首元にやはり刃が添えられて、大人しくしてないと痛い目に合うという事をやっと理解した。
(こういうのって、言葉って通じるのがお約束なんじゃねーのっ!?)
負けじと睨むようにしながら、口には出さずに内心で叫んだ。
数秒、睨み合ってから、はぁ、と琥珀は息を吐き出す。
(………どこだろー、ここ)
やっと自分の置かれている状況に疑問を抱いた琥珀は、壁に押し付けられたままで視線だけを周囲に走らせる。
何かの建物の内部というのはわかる。
ゴテゴテしい飾りなどなく、どちらかと言うと質素な、けれど、それが洋風の建物である事はわかった。割合広い廊下、高い天井、板張りの造り。
左右に視線を走らせれば、長く伸びる廊下がやはり目に入る。
そして、すぐ左手にある扉。
ごくごく普通の、若干寂れた年代ものの洋館。それが琥珀視点での、感想だ。
そうしてから、何でここにいるんだろうと首を捻るようにして思考を巡らした所で、左手にある扉が開かれた。
「■■■■、■■■■■。■■■■■」
部屋から出て来たのは見覚えのある姿、―――――ああ、ドラゴンに乗ってたヤツだ、と気付き、捕まったんだと今更気付く。
保護されたとは流石に思わなかった。
刃を喉元に当てられたままだし、見覚えのある背中に羽根を生やしたヤツは気難しい顔で琥珀を睨んでいる。
「■■■、■■■■■■■■■」
「■■■■、■■■■。■■■■■■■」
そうして、2人はさっぱりわからない言葉を交わしている。
その様を眺めながら、琥珀は本気で泣きそうになった。
心細いとか、危険を感じてとか、そういう理由ではなく、この未知との遭遇という素敵なシュチエーションにも関わらず、さっぱり言葉が通じないという事実が、意思の疎通すら出来ないというのが、果てしなく哀しかったからだ。
せっかくだから、色々聞きたいのに。思わずそう独り言ちてから、思い切りな溜息を吐き出す。
と。
ぐいっ、と再び引っ張られて、琥珀の思考が2人へと戻される。
顔を上げた琥珀が誘拐犯と目を合わせると、何かを告げられた。勿論、何て言われたか琥珀にはわかりようもなく。
ひらひらと誘拐犯が手を振ったのを合図として、襟をつかまれたまま引っ立てられるようにその場から動くよう促される。
一つ目のスキンヘッドの親父に連行されるように、琥珀は大人しく歩いた。
「あのさ、別に引っ張んなくても歩くよ~?」
「■■■」
やっぱり何言ってんだかわかんない。軽く頭を振ってから琥珀は項垂れた。
相手としても琥珀の言ってる事は理解出来ないのだろう、その証拠に襟は捕まれたままだ。
そのまま廊下の突き当たりを左に曲がり、また歩いて、左に曲がって、階段を降りるよう促される。
がっくりと肩を落としたままそこを降りて。折り返して降りて。また折り返して降りて。
そうした先には、薄暗い、石造りの床の終点があった。
(あー…何か、ここ、地下牢っぽぃなぁ。ゲームとかによくある………)
内心そう呟いて、歩くよう背中を押されて、ちらりと左右を見れば、鉄格子っぽいのがあったりして。
ここらヘンはお約束だなぁ、なんて思っていたら、一つ目の大男―――髪があるし、琥珀視点でスキンヘッドより年は若い気がする―――が立ってる姿が目に入る。
所謂、その場所の突き当たりに位置する場所なのだが。
そこで、背後に立っていたスキンヘッドの親父が、鉄格子の前に立ってた同じ一つ目を会話をし―――
「■■■■■■■■■」
背後からドスの聞いた低い声で何かを言われ、目の前の大男に腕を捕まれたと思った瞬間、引っ張られて牢にぶちこまれた。
危うく顔面から落下するところを何とか受身だけは取って、床が石だから背中とか腕とか痛かったがそれを我慢して文句を口にしようとした瞬間。
がしゃん。
激しく無情な音がして、目をやれば、空いていたはずの鉄格子はしっかりと閉じられて。
その向こうに並び立つ一つ目の親父と大男。
「って、ええええっ!? ちょっと待っ…いきなり!? っていうかお約束だけど、何か違う!! オレはこういうお約束は嫌だーっ!!!!」
絶叫してみるが、その姿を一つ目の2人は一瞥くれただけで踵を返し去って行った。
思わず後を追うように、勢いよく立ち上がって鉄格子に突進すると、そこを掴んで両手に力を込める。
うんともすんとも言わなかった。
格子の継ぎ目がブレる音も、擦れる音も、何もない。
「えええ!? ちょっと待って! 何もナシ!? ていうかこういう時ってさ! もっとこう、何かあるだろーっ!!!!」
去り行く背中が振り返る事はなく。
そのまま2つの背中は階段を上っていった。
「おぉおおーぃっ!! 置いてかないでーっ!!」
声は空しく響き渡り。
返る言葉も声もなく。
琥珀は独り、薄暗い地下牢に取り残される。
その後、声の続く限り叫んでみたが、無駄な努力だと琥珀が理解したのは、いい感じに声が掠れてからだった。
そうしてから改めて肩を落として格子から離れると、奥の壁際―――前方の廊下が見えるような位置―――に腰を降ろして背を預ける。
「喉、痛い」
ぽつりと呟いてから、ごちっと背後の石壁に頭をつけて、双眸を伏せた。
さて、これからどうしよう。
内心そう呟いた瞬間、背筋に物凄い悪寒が走った。
慌てて左右を見回し、それから安堵の息を吐き出す。
「………琳ちゃん、怒ってるな」
悟りきった声を出してから、でも不可抗力だから、と呟いた。
それから琥珀は体育座りになると膝に顔を埋めて、疲れたなぁと呻くように口にする。
暫くそうしているうちに、自然と意識は薄れて行った。
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