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This blog is Written by 小林 谺,Template by ねんまく,Photo by JOURNEY WITHIN,Powered by 忍者ブログ.
徒然なる、谺の戯言日記。
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 15 タブーは“勇者”


 ひくり、と顔が強張る。
 ありえないくらい冷え冷えとした笑みを自分が浮かべているであろう事がわかった。
 対峙するリーダー魔族さんの顔が一気に青褪めたから。

「…今、何か言った?」

 声のトーンが更に下がっているのも仕様。
 けれど。
 沈黙したのは、リーダー魔族さんだけじゃなかった。
 全体が。この場が。それと共に、痛いくらいの視線が自分に注がれているのを感じる。
 他の人にも、リーダー魔族さん曰く“加護者”と思われてたんだろう。この髪の色で。
 けれど、さきほどの発言で、眼も黒いのがバレた。
 両方黒いとか、ありえないのだから。この世界では。
 わかっていた筈なのに、ある意味。それでも、目の前のコイツが余計な事を言わなければ―――

「や、やはり、勇者だな! 我々は 「聞き飽きた」

 気を取り直して、とでも言うように声を上げたリーダー魔族さんの科白を絶対零度の声で遮り、睨む。
 再度、場が沈黙し―――――魔族の3人は、こちらを伺うようにして、再びブツブツと呟き始める。
 この距離でも何を言っているのかはわからない。

「危ない、下がって!」

 神官服の男が叫んだ。
 その声に肩を竦めて返し、地を蹴った。

 こんな茶番劇に付き合うつもりはない。
 それに余計な一言を口にしている、ただ殴って黙らせるだけでは事足りない。
 第一、やられる前に、やるのが当たり前。
 ……その思考が普通じゃないのかもしれないけれど、喧嘩を売ってきたのは向こうで、私はそれを買っただけだ。
 即金で。

「“返すは紅蓮のほの”……ぐぁ」

 とりあえずリーダー魔族さんは放置。
 その右隣にいたヤツへと殴りつけて―――

「何でこっ……がは」

 そのまま腕を掴んでもう片方に投げつける。

「馬鹿なっ!?」

 リーダー魔族さんが叫んだ。
 意図的としか思えない行動を私が取ったせいなのか、動きが見えなかったとか阿呆な理由のせいなのかはわからないけれど。

「文句ある?」

 言いながら接近し、両手を広げて何かを呟こうとした顔面に膝蹴りをお見舞いしてあげた。
 呻き声を上げながら反り返って倒れる躰を踏み台にして、その背後へと回り、背中を思いっきり蹴り上げる。
 見事な勢いでもって空中へと飛んでいった。

 もう人間じゃないね、コレ。

 上空を仰ぎ見ながら、冷静に自己分析を下した。
 そこまで痛くはなかったはずだが、呻き声が2つだけ、小さく耳に届く。
 最初の2人はノックアウト済み、お星様になったリーダー魔族さんは―――――落ちて来たから軽く右に躰を反転しつつ後退し、落下を見届ける。
 いい音をさせて落ちた後、ぴくぴくと痙攣しているのを見ると生きているようだ。丈夫に出来てるね、本当。流石は魔族。
 しかし、動く様子は全く見えない。あれだけ飛べば無理もないのだろうけれど。

 それから肩で息を一つ付いて、人々に向き直る。
 彼等の表情を一言で現すなら、ぽかーん、といった表現が一番相応しい。
 言いたくないけれど。

「あのね」

 厭きれ返った声しか、口からは出なかった。
 ゆっくりと彼等に歩み寄りつつ、とりあえず言いたい事だけを告げる事にした。
 彼等が正気を取り戻し、余計な事を言い出す前に。

「相手攻撃が打たれるのを待ってる余裕がないのに、それをするって可笑しいと思わない? 攻撃をすでに仕掛けているのだから、全力でそれに応じるのが当たり前だと思うのだけれど?」
「―――わ、我々の力では、彼等の魔力に対する 「だから、何で相手が攻撃するのを待ってるの?」

 場が沈黙した。

「すでに、攻撃を受けている。相手側には、危害を加えるという明確な意思表示がされている。それなのに、わざわざその機会を与えてどうするの? 魔力では叶わないというのなら、相手にそれを使わせる前にねじ伏せないとダメよ」
「……詠唱中に殴るなんて」

 その声は背後から聞こえた。

「同じ事を何度言わせるつもり?」

 うんざりしつつ振り返り、肩越しに睨む。
 いつの間に意識を回復したのか、最初に殴りつけた魔族がそこにいた。リーダー魔族さんの傍らで、その身を起こすようにして。
 思わず、溜息が漏れた。
 リーダー魔族さんを抱き起こす姿を睨み付けながら来た道を戻るようにして、魔族へと近付いていく。

「詠唱を待て? 自分達で攻撃をしかけておいて何を偉そうな事を言ってるのよ。未熟者が」
「なっ……私達が誰だか知っていて、そんな科白を!?」
「知らないけれど。文句を言う暇が有るなら、同じ威力の魔法とやらを、もっと短い語句で使いこなせるようになる事を優先すべきでしょうし、それが普通。でもそれが出来ないからそんな長い言葉をぶつぶつと口にする必要がある人に対して、未熟以外に何と言いのかしらね。というか、自分で攻撃してきてるんだから、その時点で戦闘は開始されてるも同然。相手が対向して攻撃するもは必然でしょうに。寝言は、寝てから言いなさい」

 すぐ傍まで歩み寄り、跪いたままの状態を見下ろして一気に言い切った。
 黙り込む姿を一瞥し、左右を見回し、飛んでいったもう1人が身を起こすのを確認してから、視線を戻す。
 それから、にっこりと笑みを浮かべた。

「今すぐ帰る? 続ける? 私はどちらでもいいけれど、次は手加減しないから、そのつもりで」
 
 ひっ、と小さな声を上げて、勢いよくリーダー魔族さんを肩に背負うようにして立ち上がると一目散に橋へと走り出した。
 それに続く1人、更に遅れて2人。
 全員が橋を渡りきって、そのままの勢いで退散していく背中を見送った。

 あそこまで過剰に反応されるとは思わなかった……。

 正直、少し傷ついたのだけれど、気にしたら負けだと自身に言い聞かせる。
 随分前にも似たような事があったのだから、今更、今更、と繰り返し、大きく肩で息を吐き出した。
 それから、ゆっくりと振り返り、安堵の表情を浮かべる人々へと向かって再び歩き始める。

「さっきの続き、いい?」

 互いに躰の状態を確認するようにしていた彼等の視線が、一気にこちらを向いた。
 それに思わず立ち止まってから、自分も何も言わずに退散しておいた方が良かったのではと思った。
 もう遅いけれど。
 満面笑みで、神官(?)の3人が駆け寄って来た。

「一瞬で間合いを詰めるとは流石です」
「…有り難う。でも、言わせて貰っていい?」
「「「何なりと、勇者様」」」

 3人が満面笑みで声をそろえて返した科白に、あからさまに眉を顰める。
 それに対して、声と同じようにして、神官服の彼等は揃って半歩後ずさった。

「勇者って呼ばないで。でもも何もないから。今度口にしたら、殴る」

 口を開きかけた3人に、何を言わせるでもなく―――実際は、言わせてなるものかと見据えるようにして早告ぎで科白を続けた。
 口篭もるようにして、まるで親にしかられた子供みたいな顔が3つ並んだ。
 それを見て、これって脅迫になるのかな、と一瞬だけ思ったが、この際そういう事は念頭から追いやる事にした。
 それよりも言わないといけない事がある。

「さっきの5人組にも言ったけれど、あなた達にも言いたい。どうして相手が攻撃してくるのを待ってたの? あれだけ時間があれば、何らかの手を打てたと思うのだけれど。実際防げていたわけだし」

 3人の顔が、ぽかーん、とする。
 魔族と対峙していた時は非常に緊迫した雰囲気だったし、他の人達の傷の具合等を確認していた時も凄く真剣な表情をしていた。
 それなのに。
 こちらに向かう顔は、果てしなく情けない。
 それ以外に言いようがないくらい、本当に同一人物なのかと疑うくらいに、情けなかった。

「魔力、多分に魔法の威力においても、普通に逃げた彼等の方が上なんでしょう?」
「はい、そうです」
「それなのに、アレだけ隙だらけだったのに、何もしようとしなかったのはどうして?」
「「「え?」」」
「さきほど見た限りでは、あなた達は、一般人を守るためにいたのよね? それなのに、戦おうとはせずに守りに徹していたのはどうして?」
「我々の力では、大きなダメージを与える魔法を放つ事ができません」
「相手が長い詠唱とやらをしてる間にも何も出来ないの? 攻撃を仕掛けてきたのは彼等。その時点で、戦闘開始はなされてるのだから、遠慮する必要はないと思う。隙があるなら、どうすればいいか、考えないとダメよ。防ぐだけが守る事じゃないし、自力で追い返すくらいの気概がないと」
「しかし、彼等はこれまでにも何度か来ていますが、こうして防いでいれば帰るので」
「今回はいつもと違う。それに気付いてて、そう言ってるの?」

 場が沈黙した。

「建物しか破壊しない、しかも、生活には直接関係のないものばかり。そう聞いた。けれど、今回は違う、そうでしょう?」

 無言の頷きが3つ返る。

「だったら、今までと同じでいい訳がないよね? 誰かれ構わずに攻撃するのはよくないけれど、少なくとも、あなた達の立場を考えて、一般人、この国の国民に危害を加え様とする相手に対して、ううん、危害をくわえた相手に対して、そのまま防いで帰るのを待つなんて可笑しいわよね」
「……これまで、そのような事を考える事がなかったもので」
「守りたいなら、防ぐばかりじゃなくて、時には牙を向く事も必要。もちろん、そんな必要がないのが一番なのだけれどね」

 肩を竦めた私に、3人はやっと安堵したような笑みを浮かべる。

「確かに、その通りですね」
「何故これまで疑問にすら思わなかったのか、不思議です」
「言われてみれば、あの長い詠唱中に何らかの手を打てばよかったんですね」
「或いは、詠唱させなければよかったんだ。そうすれば被害はもっと押さえられた」

 頷きあう姿に、苦笑いしか出なかった。
 私としても、これまでそういう思考が働かなかった事が、不思議です。本当に。
 けれど言いたい事は言ったし、この3人を見て、もう二度と、ああいった間抜けな光景が繰り広げられる事はないだろうと安堵する。
 正直、そのままのノリでいかれたら、付き合い切れないレベルだから。

「それで、他の人達の傷の具合はどうなの? さっき見た限りでは防げていたけれど……あなた達も、酷くはなさそうだけれど……」
「我々はかすり傷ですから」
「火傷をかすり傷って言うのは違う気がするけれど?」
「いえ、この服は対魔法の法呪が編まれているので、見た目ほど酷い怪我はおっていません」
「物理攻撃に弱いのね」
「ありていに言えばそうなります」

 苦笑する3人に、どうみても神官(?)にしか見えないのだが、多分、魔法使いという職業なのだろうと判断した。さきほども、言葉を紡いで火の玉を防いでたくらいだし。
 対物理攻撃にも高い防御力を誇ってくれたら便利なのに、世の中はそう美味くはないらしい。

「それじゃ、私はこれで。悪いけれど、怪我を治すような魔法とか使えないから、もう役に立つ事もないだろうし。大きな実害が出なくて何よりだったわね」
「「「はい」」」

 声を揃えて頷き、3人は姿勢を正した。

「有り難うございます」

 1人がそう口にして、頭を下げ、残った2人がそれに続く。
 最敬礼、そう呼ぶに相応しい状態を目にして、苦笑した。



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