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This blog is Written by 小林 谺,Template by ねんまく,Photo by JOURNEY WITHIN,Powered by 忍者ブログ.
徒然なる、谺の戯言日記。
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 08 やっぱりマトゥ


「人違いしてますよ」

 声のトーンは、自分でも驚くくらい、低かった。
 無理もないけれど、琥珀以外にこういう声を出したのは初めてかもしれない。

「いいえ、間違いありません」
「私はそんな名前ではありません」
「ええ、存じております。あくまであなたを指す言葉であり、あなたの名前では確かにありませんね」

 見た目は軟弱というか病弱そうなのに、中身は違う。むしろ、絶対、性格悪いな、と。

「ですが、あなたがそうである事は、間違いありません」
「根拠は?」
「神託の元、エル様のお力をお借りして儀式を執り行い、呼び声に答えて現れたのが、あなた方だからです」

 和やかな笑みを浮かべ、幽霊、じゃなくてラッセルと名乗った男はそうのたまった。
 神託? エル様って誰? しかも儀式って……。
 でも、待って、それよりも。

「呼び声に答えた?」
「はい」
「身に覚えがない」
「ですが、確かに。答えなければ、ここへは来られません」
「……それって、召喚とかそんな儀式?」
「はい。よくご存知ですね」

 微笑んで頷く。

 ゲーム?

 そう思った瞬間、私はある事を思い出した。
 そう、そういえば、だ。
 止めた方がいいと私は思っていたけれど、筆頭に上げて頑張ってた、あの体感RPG。確か、主人公というか、コントロールするキャラ設定は、確か“勇者”だった筈だ。
 国の名前は違った気がするけれど、私が知ってるのは最初の企画の段階での内容だし、ストーリーは変わっている事もあるだろう。
 つまり、そういう事か。
 知らない間に、被験者、もとい、テストプレイヤーになっているという。
 あれだね、これは絶対、琥珀の仕業に違いない。他の社員、もとより開発部の人達がこんな事をする訳ないし。
 終了したら殴って、その後で説教だ。
 何て事するんだろう。
 むしろ今すぐ終らせるべきか――

「勇者様、それと、一つ、お詫びしなければならない事があります」

 黙り込んだ私に、言葉を続けるラッセル。
 NPCに間違いない。
 こちらのアクションに対して、決められた科白を口にする。それが終るまでは止まらない、と。

「従者の方ですが、私の迎えが遅れたため、魔王の手の者に連れ去られてしまいました。申し訳ございません」

 頭を下げた。それはもう、心底申し訳なさそうに。
 ああ、こういうストーリーなのね。
 連れがいるのか、なるほど。
 そして魔王とか。何だ、お決まりの勇者が魔王を倒してハッピーエンド?
 そういう在り来たりな話じゃなかった気がするんだけど、琥珀の趣味色に変わったのか。
 それで行くと、勇者を倒して、その従者とやらを連れ戻してエンディング、従者が死んだらバットエンディングとかになるんだろうな。

「あの、勇者様…?」
「え、ああ、聞いてるから大丈夫。それで、助けて欲しいっていうのは、その魔王を倒してくれとかそういう事?」
「いえ、そこまでは」
「はい?」
「以前は交易も盛んで、別段何も問題なく国を行き来するのも可能だったのですが。半年ほど前に突然、一方的に交易、往来、手紙のやり取りすら出来なくなりまして」
「はぁ?」
「時を同じくして、襲われるようになりまして。最初は何か勘違いをされているのでは、と、文書を送っていたのですが、どういう訳か、もう騙されない、といった趣旨の返信しか頂けず…」
「意味わかんない…」
「ええ、我々としても困り果てておりまして」
「そうじゃな…―――まさか、それで私を呼んだとかそういう事?」
「いえ、違います」
「って、違うの!?」
「大国クレッセリオスが」

 どんな設定よ、それ。
 しかも新しい単語、大国クレッセリオス。大国と付いてるからには、それはもう大きい国なんだろうけど。
 でもね…。

「……魔王より、そっち?」
「ええ、彼はとても良い方ですから。きっと何か勘違いをされているのではないかと」

 魔王が良い方って……どんなゲームなんだろう?
 確かに王道ではないかもしれないけど……。
 ああ、そうか。この人、見た目が非人間だから、そっち関連の人なのか。それならわかる。

「誤解が解ければ、元通りだと思いますので、そう気にしてはおりません。……勿論、問題が全くないという訳ではありませんが」
「問題あるなら、気にしようよ…」
「今のところ、建物以外への被害がありませんので」
「そういう論点なの? 十分問題だと思うけれど? そもそも、建物への被害って何?」
「ええ、魔王の元にいる方が幾人かでやって来ては、街に攻撃を 「それ十分問題じゃない!!」

 叫び声を上げた私に、2人がぱちくりと目を瞬く。

「しかし、国民に被害は出ておりませんし。食生活に結びつくところへの攻撃はありませんから」
「街に攻撃って、生活に支障が出ない?」
「それが、街を囲む塀や、集会場といった集合施設だけですから」
「何、それ…。意味がわからない」
「ええ、我々にもわからないのです。ですから困り果てておりまして」
「それは確かに、困るね。どう対処すればいいのかが」
「ええ」

 頭が痛い。絶対ボツだね、これ。

「―――ちょっと待って。それで、その、従者? 連れ去られたって、魔王の手の者って言ったよね?」
「はい」
「どうして? その、呼んだ原因が、大国クレッセリオスにあるなら、魔王側の人が連れ去るのって可笑しいよね? その大国クレッセリオスの―――て、名前が長い。その大国の人が連れてくならわかるんだけど?」

 ダメダメだね。
 プログラムエラーとかそういう次元じゃない、ストーリーが矛盾してる。
 ボツ確定。

「それは、わかりかねますが…おそらく」
「おそらく?」
「勇者様の従者だからではないかと」
「却下」
「「はい?」」

 2人揃って疑問符を上げた。
 どういう理屈になるのか、それは。魔王が良い人なのに、勇者の従者だからって連れ去るって意味不明すぎる。

「あなた達に言ったわけじゃないから。気にしないで」
「……では、誰に向けて?」
「バカに向けて」
「はぁ…?」
「ま、いいや。とりあえず、いいかな?」
「はい、何なりと」
「勇者って呼ぶの止めてくれる?」
「………。いえ、しかし、そうですから」

 またこのパターンか。
 しかもこちらは、断言してるし。

「そう呼ばれるの好きじゃないから」
「しかし、事実そ 「しかしもかかしもない。止めてくれる?」

 睨むようにして科白を遮る。
 面倒な、もしかして毎度毎度この訂正をしないといけないって事?

「私には松浪琳子っていう名前があるから、そちらで」
「マトゥナミリンコ様ですか」
「あんたもかっ!!」

 思わず叫んだ私に、2人揃ってびくりと反応し、ラッセルは困ったように苦笑して、リエは―――何故か目を輝かせていた。

「―――琳子。そっちが名前で、性が松浪」
「では、リンコ=マ 「いや、もういいから、それは」

 げんなりとした私の科白に続いた聞き覚えのあるフレーズを思いっきり遮った。
 何度も何度も同じことを……。
 “マトゥ”じゃなくて“松”、私の名前は純日本語の漢字。
 遮られた当の本人であるラッセルはぱちくりと目を瞬いてるけれど。

「それで、私は何をすればいい訳?」
「当面は身を潜めていただき、その間、できれば国の復興作業などを手伝って頂けると嬉しいのですが」
「はぁ? ちょっと待って、そのために呼んだ訳? それって別に勇者じゃなくたっていいじゃない? むしろ、建設関係の職人を呼びなさいって話だと思うけれど?」
「当面は、ですから」
「……その後は?」
「大国クレッセリオスの当国への侵攻を防いでいただければ、と」
「………無理じゃないかな、それ?」
「いえ、ゆ―――リンコ様でしたら、出来ます」

 言い直した、今。“ゆ”って言ってから訂正した。
 本当に宰相なんだろうか、この人(?)。

「根拠は?」
「リンコ様が、応じてここへ来てくださった方だからです」
「それって根拠になるの?」
「はい。―――過去にも召喚の儀式を執り行った事が、確かに記されております。存亡の危機にあった国を救ったと。そのための“力”を持った勇者が、儀式に答えて現れるとありましたので、間違いありません」
「……“力”って」

 そもそも、呼ばれた覚えがない。
 勿論、答えた覚えもないのだが。

「その時々によって違えるようですので、何とも言えませんが」
「わからないの?」
「はい。リンコ様はどのような“力”をお持ちですか?」
「……聞かれてもわからないけど。そもそも、私はただの一般人だから」
「いいえ、儀式に答えて現れましたので、間違いなく…………。一般人ではないかと」

 妙な間が開いた。「勇者様ですから」とか、入るから?

「一般人である事を、ここでも否定されるとは…」

 呟く。
 高校時代にはさんざ否定されたけれど。後にも先にも、あの時だけだ。
 琥珀……やっぱり殴ってやる。説教してやる。オマケに座禅も付けてやるわ、覚えてなさいよ。
 自分がやりたいって言ってたのに、私を使うとはいい度胸よね、本当。



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 07 マトゥ


 頭を整理している。
 リエと名乗った彼女があの後何かを言ってた気がするけれど、覚えているのは、「お水をお持ちしますね」という最後の科白だけだ。
 今は一人、この部屋に残されている。
 私は彼女と会話していた、その場所に立ち尽くしたままだ。
 反芻するのは、その口から紡がれ、耳に届いた言葉だけ。
 ここは、神聖レシル王国という名の国。
 現在地は、王都レシリア、そこに建つ王城の一室。
 部屋の作りから察するに、客賓用のものだろうけど、多分に。
 そうして、彼女が私に向けて言った、“勇者様”。
 意味がわからない。
 訳もわからない。
 何がどうなっているのか、どうしてこんなところにいるのか。そもそも、何で私が“勇者”なのかもわからないが。
 一番最後が一番納得出来ないんだけれども。

 落ち着け、落ち着け。
 言い聞かせる。
 ここまで来るのに、実際はかなりの時間を要していたのだが、そんな事を気にする余裕はない。
 止まっていた思考がやっと動き出したのだから、最初にやるべき事がある。
 固まってる場合ではない、混乱してる場合でもない、悪態ついてる場合でもない、現状をしっかり把握しないと。

「―――って、出来るかっ!!!!」

 叫んだ。
 もう柄にもなく叫び声を上げましたよ、馬鹿みたいに。
 部屋に一人しかいないから、その後は、しんっとした時間が流れるだけ。

「何だってのよ、これ」

 額に手をあてる。
 祖父に言われた事があるが、これ、私が困った時の癖らしい。
 溜息を一つ吐き出して、とりあえず、寝ていたベットへと逆戻り、腰掛ける。
 落ち着けと自分に言ったところで、何をどう落ち着いたらいいのかわからないし、考え様にも、わからない事ばかりでどうしようもない。
 もう一度深い溜息を吐き出してから、ある事に気付いた。
 自身の服装。
 スーツ着てる……。
 このままで寝てたのか、と思わず笑いそうになってから、待て、と自分を制する。
 仕事に行く時の服装だ、これは。
 それなら、私は仕事に行こうとしていたのに、気付いたらベットの中で寝ていたとなる。しかも知らない場所で。
 更に意味不明な展開だ。
 両手で頭を抱え込んだところで、ドアをノックする音が聞こえる。
 ノックは2回、さっきも聞いた音だ。ゆっくりと顔を上げて、視線を向けると、顔を見せたのは見覚えのある姿。

「お水、お持ちしました」

 変わらず満面の笑顔。
 可愛いんだけどね、可愛いけれど、この場合、というか私はそれどころではないんですけど。
 すぐ傍までトコトコと歩く姿も可愛いね―――って、違う。
 気付かなかったけど、ベットの傍にナイトテーブルがあったようで、リエはそこにポットとグラスの乗ったお盆を置いて、

「お腹は空いてませんか?」

 そんな事を聞いてきた。

「大丈夫」
「そうですか。―――はい、お水です」

 にこにこと、グラスに注がれた半透明のそれを差し出す。
 飲んで大丈夫なんだろうか、これ。きっと普段の私なら見ず知らずの人間にそんな物を出されても疑っただろうけど、気が動転してたと認めざるを得ない、そのまま、「有り難う」といって受け取り、一気に飲み干した。

「美味しい」
「本当ですか? 有り難うございます」

 ぽつりと呟いた科白に、心底嬉しそうな声が返った。
 律儀に返事しなくてもいいのに。
 けれど、確かに、私はそれを飲んだ。
 躰を抜けた冷たい感触が、これが夢ではなく現実であると告げている。
 馬鹿な夢を見てるのかと思っていたのに、哀しいことにそれは否定されてしまった。

「ええと、それでね。聞きたいんだけど…」
「はい、何ですか? 勇者様」
「……いや、その呼び方止めて」
「え、でも…。そうですよね?」

 きゅーんとして、小首傾げて聞かれても。
 可愛いんだけれども、違うだろうに。
 それは私が聞きたいよ……。

「私には、松浪琳子っていう名前があるから」
「マトゥナミリンコ様ですか」
「…松浪」
「マトゥナミ様ですね」

 満面笑顔ですが、違います。
 そもそも、それ全部が―――ああ、そうか。

「琳子。そっちが名前で、性が松浪」
「…では、リンコ=マトゥナミ様ですね」
「いや、だから松―――もういいや、それで。お水美味しかった、有り難うね」

 どうして“松”が“マトゥ”になるのかさっぱりわからないが、訂正するのを諦める。
 言っても無駄な気がしてきたし。

「はい、勇者様。どう致しまして」
「いや、それ止めて」
「はい?」
「その呼び方」
「でも、そうですよね?」

 リピートですか、リピート。
 何のために名乗ったのかと……。

「せめて、名前にしてくれる?」
「あ、はい。では、リンコ様」
「様って……それもいらないんだけど」
「え…、でも、リンコ様は勇者様ですし、そういう訳にもいかないのですけれど」

 それから離れて欲しいんですが。

「本人がいらないって言ってもダメ?」
「はい」

 即答ですか。
 言った本人は、それを当然といった風にしてる訳で。
 その顔を見て、これは何を言っても無駄だなと悟る私がいたりして。

「わかった、それでいいよ。でも、勇者とか言うのはやめてくれる?」
「え、でも…そうで 「そう呼ばれるの好きじゃないから」

 ぴしゃりと言い放った科白に、一気に表情が暗くなった。
 何ていうか、私が物凄く悪い事をした気になるのはどうしてだろう。

「だから名前にしてね」

 とって付けた科白に、急浮上。ぱぁっと花が咲いたみたいな笑顔。
 色見本みたいなコだ、なんて一瞬思ったけれど、口には出さないでおいた。

「はいっ、リンコ様」

 何でこんなに嬉しそうなんだろうと激しく疑問に思う。
 いや、他にも疑問は尽きないのだけれど。

「それで、リエさん」
「リエです、リンコ様」

 見かけによらず強情のようで。

「それじゃ、リエ。聞くけど…―――ああ、妙な事言ってるなと思ったら言ってくれていいから」
「はい。何でしょう?」
「どうして私はここにいて、何故に私が勇者なのか、そもそもどうやってここに来たのか、それから何故ベットに寝ていたのか、最後に地理でいうとこの国はどのあたりに位置しているのか、教えてくれる?」
「え、ええと……そんなに一度に言われましても」
「一つずつでいいから」
「あ、はい…。ええと、リンコ様は勇者様ですからここにいて、何故リンコ様が勇者様なのかと言われましても選定理由は私にはわからないのですが」
「って、わからないの!?」
「はい、申し訳ありません」
「ちょっと待って、謝らなくていいから。わからないのにそう呼んだの?」
「はい。だってどこをどう見ても間違いありませんし、そのようにお聞きしましたので」
「………聞いたって、誰に」
「ミルファ王女様とラッセル様から」

 誰?
 名前が二つ出ました、はい、双方知りません。
 片方は少し前、耳にした呼称だけれども。

「それで、ベットに寝ていたのは気を失っていたので、大事を取ってという事です。その辺りのお話は、ラッセル様から聞いていただけると、わかるかと思います。リンコ様をお連れしたのがラッセル様ですので」

 疑問符しか浮かんでない私を置いて、リエは言葉を続けるのでした。
 どうやら彼女、私が勇者と言われて、その身の回りの世話をするようお偉い方々から言われて、喜んでるというのだけはわかったけれども。
 とりあえず、そのラッセルとやらに聞かないと先には進めないってのも理解。

「この国の位置ですが、エリシオール大陸の一番東にあります。東側は海に面しておりまして、北方、西方、南方はそれぞれ山に囲まれています。特に北西の山は、雲をしのぐ高さを誇る、エリシオール一高い山なんですよ」

 ヘンな方向へ行ってる話だとは思っていたけれど。
 夢かと疑う状況だったけれど、これは現実と再認識させられた上で、それか。
 もう、厭きれるとかそれ以前に、愕然と、というか、やっと怒りが湧いてきたというか。
 現状に。

「………どこよ」
「エリシオール大陸です」
「だから、それが…」

 コンコン、と。2回のノック。

 どこなのか、と口にするのを遮るように、それは室内に嫌に響き渡った。
 再び頭を抱え込んだ私を、不安そうにリエは見つめていたのだけれど、響いた音に、表情を明るくさせた。

「きっと、ラッセル様です。さきほど、お水を取りに行く時に目を覚まされたとお伝えするよう頼んでおいたので」

 言いながら、トコトコとドアの方へ。
 諸悪の根源の登場か。
 私の勝手な思い込みだったろうけど、リエの口から出た名前にそう思った。私をここへ“連れて来た”と言ってたんだから、強ち間違いでもない自身がある。
 ドアを睨む。もう本気で。
 のこのこ顔を出せるとはいい度胸してる。
 とりあえず、言い分は聞くとしても、何発か殴らないと気がすまな―――

「よかった、お元気そうですね」

 開かれたドア、目線を下げたまま入室して、やはり何故か一礼して、顔を上げてこちらを向いたその人物は、心底安堵したような声を漏らした。
 私は、というと、睨むのも忘れて、その姿を見つめる。

 これは、何?

 驚かない人間がいたら、そいつはきっと脳の神経が焼ききれているに違いない。
 笑みを称えたまま、すぐ近くまで歩み寄って来る。
 歩いてるから、幽霊ではないらしい。しかし。

「お初目にお目にかかります。宰相の、ラッセル=アルベッキーノと申します」

 2メートルほどの距離を置いて立ち止まり、優しそうな声で、優しげな笑みを浮かべて、そう名乗ってから、深々と頭を下げた。
 いや、ていうか。
 人間ですか? と、聞いたら失礼だろうか。
 驚く事ばかりというか、そもそも何もかもが可笑しい状況だけれど。

 ラッセル=アルベッキーノ、と名乗ったこの男。
 白い。
 とにかく、白いのだ。むしろ、青白い。
 幽霊じゃないなら、引き篭り? と、聞きたくなるくらいに。細いし、むしろ細長いし。絶対虚弱体質だ。
 まず、顔色が不健康そのもの、血色が悪すぎる。リエも白かったが、こちらは健康的で、美白な肌と言えるけれど、目の前の男は明らかに、病的。
 更には、色が全く入っていない、白髪。老人という年齢には見えない、若いというわけではないが、どう見ても40代だ。なのに白髪。しかも長髪。肩より少し長いだけの、白髪。
 そして、優しげではあるが、限りなく、限りなく、やっぱり白に近い、薄いスカイブルーの瞳。
 着てる服まで、白い。真っ白だ。
 ……虚弱体質どころじゃないね。
 人間ですか、これ? いや、これ呼ばわりは失礼だろうけど、流石に、私も限界というか。

 黙り込んでる私に、苦笑が返る。
 苦笑いなんだろうけど、どう見ても、そのまま倒れそうな雰囲気。

「突然のことで、驚かれているかと思います」

 言葉を紡ぐ。
 口調からは、弱々しい感じは受けない。しっかりとした物言いだけれども、見た目に問題がある。
 それと驚いてるのは、確かに突然だったけど、正しくは、あなたの容姿に。
 人間ですか? と、思わず尋ねたいのを再度飲み込んだ。

「ですが、どうか、我々をお助け下さい。勇者様」

 ぴしり。
 深々と頭を下げる姿を前に、私の顔は無表情で固定された。
 
 そういえば、そうだった。
 私の思考は、“勇者”という単語に停止するのではなく、それはもうしっかりと、繋がった。
 すっかり忘れていたけれど、目の前のこの男は諸悪の根源だったのだから。



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 06 気付けば天蓋


 もそもそと布団を頭まで引き上げる。
 ごろっと左側を向き、すっぽり被った布団の中で開きかけた瞼を閉じた。

 今日は何かあったような気がするけど。

 僅かに浮上した頭で思うのはそんな事。
 眠いし寝心地が良いから、もう少し―――

「って、会議っ!?」

 慌てて飛び起きて、首を巡らす。
 枕もとに置いてある時計で時間を確認しようとし―――――私の時間は停止した。

「何処よ、ここ…?」

 視界に入ったのは、それはもうありえないくらいにゴテゴテした飾りと薄いブルーのレースが付いた、天蓋付きのベット。
 どうして私はこんな所で寝てたんだろうか。
 まかり間違っても、ここは私の部屋ではないし、そもそも、純和風作りの斎賀宅、こんなベットが存在しているわけがない。
 茫然とするな、という方が無理だ。
 頭を抱えるようにして、レースカーテンを押しのけながらベットから滑り降りて周囲を改めて見回した。
 その視界に映るのは、多分、12畳くらいの広さの室内。

「悪趣味な」

 正直な感想。
 一言で済ませればヨーロッパテイストといった所なんだろうけど、豪奢な作りも、きらびやかな装飾品も、純和風の落ち着いた雰囲気――寺だけに――で育った私からすれば、余計なもののように思える。
 普通の女の子だったら喜ぶかもしれないけど。
 私は部屋に余り物を置かないし、シックな色合いで纏めるのが好きだし。

 電気は付いてないけど光が差し込んで明るい室内に、首を傾げるよりも早く数歩進んだところで結論が出た。
 ベットの向こう側、日本の家とは思えないくらい高い天井から床まで伸びるのは、これまた薄いブルーのカーテン。全面カーテンである事を考えると、この部屋、片側は全部窓のようだ。ベットのある位置はきっちり閉じられていたが、それ以外の場所は開かれていて、薄手の白いレースカーテンだけ、光はそこから届いていた。

 ここはどこだろうかと思案しつつ、窓辺へと寄って行った私に、コンコン、と、2回、ドアをノックする音が届く。
 くるりと反転した私に、返事も待たずにドアが開いた。
 ゴテゴテしい飾りのドアノブ……とか余計な事を考えた私の前に、ドアの向こうから現した姿に、硬直する以外なかった。

 コスプレ…?

 何故か一礼し、目線は下げたまま部屋へと入ってくる。
 静かにドアを閉じて、振り返り、改めて顔を上げて、やっと私と目があった。というか、私に気付いた、といった方が正しいかもしれない。驚いた顔で、その動きを停止させたから。
 むしろ、驚きたいのはこちらなんですけど?

 静かな時間が流れる。
 私は訝しげな顔をしていたに違いないんだけど、相手は驚いた顔から、何故か嬉しそうな顔へ。

「お気づきになられたんですね」

 花だ。花が飛んでる。
 可愛らしい声でそう口にして、何故だか満面の笑み。
 っていうか、誰?

「あ、どこか痛いところはありますか? それとお腹は空いてませんか? それから 「いや、あなた、誰?」

 矢継ぎ早に言いながら歩み寄る姿に、身構えるようにして、それを遮った。
 ぴたり、と足が止まる。
 互いの距離は2メートルほど。
 驚いたような顔になってから、何故か苦笑する。
 言葉が通じなかった?
 いや、でもしっかり日本語を口にしていたし、かなり流暢に。

「失礼致しました。―――私、リエ=ナセレイタと申します」

 謝罪し、深々と一礼して、名乗った。
 間違ってないけど、違う。
 私が言いたいのはそういう事ではない。聞いた事もそうではない。

 にこにこと微笑むその姿は、可愛らしい。
 年齢は多分10代後半くらいだと思うけれど、顔立ちが日本人じゃないから断言出来ない。
 緩やかに波打つ、ふわふわしてそうな髪は、柔らかな茶系の金髪だし、嬉しそうな色だけを浮かべてる瞳は鮮明な蒼。明らかに西洋系の顔とあわせて、絶対日本人じゃないと言える。
 強いて言うなら、お人形さんみたいな感じだ。
 文句なしの美少女。
 美女と言わないのは、大人の女性という雰囲気を全く感じないから。

 って、そうじゃない。私。落ち着け。
 リエ=ナセレイタと名乗った姿を見つめる。
 うん、見覚えはない。
 名前にも聞き覚えはない。
 知らない人、これだけは間違いない。だのに、何故に相手はこんなに嬉しそうな顔で私を見ているのか。
 怪訝な顔してる人間をこれだけ満面の笑みを浮かべて見つめ返せるって、この人、頭のネジ緩んで―――って、落ち着こう、私。
 何気に失礼な事を考えた自分に、思わず額に手を当てて、冷静に、冷静に、と繰り返す。

「あの、大丈夫ですか? 頭痛が? それともやはりどこか痛みますか?」

 不安げな声をあげて近付く姿を、もう一度見つめる。
 声と同じように心配してる顔、というか、オロオロしてる。
 嘘を付いているようには見えないけれど、本当に、誰よ。

「大丈夫。別にどこも痛くないから」
「そうですか? 無理をされてませんか?」
「してないから。本当に平気」
「そうですか」

 安堵したような声と、自分のことのように嬉しそうな笑顔。
 でもそれ以上に気になったのが、すぐ傍まで来たからわかる、その身長差。
 この子小さい…150ないんじゃないだろうか?

「ええと、リエさん? で、いいのかな? 確認するけど、初対面よね?」
「はい。こうしてお会いするのは初めてになりますが、リエで結構ですよ」

 にこにこと、“さん”付けを訂正された。
 初対面の割に妙な事を言う、というか…初対面の相手に対する態度?
 明らかに、以前から私を知ってる人みたいな応対されてるような気がするんですけど?

「眠っていらっしゃったので、ご挨拶が送れましたが。私が身の回りをお世話させて頂きますから、敬称はいりませんので」
「は…?」

 思わず阿呆な声を上げた。顔には出てないだろうけど、無理もない。
 意味がわからない、身の回りの世話って、私、自分のことくらい自分で出来る―――て、そうじゃない。

「何故に、私が? というか、私の? あなた、どこの人? むしろ何処よ、ここ?」

 何言ってるんだか、私。
 でもそれって、きっと、正直な反応じゃないかと。
 笑顔が崩れるかと思ったんだけど、その美少女――リエは、笑みを称えたまま―――

「ミルファ王女様から、そのように申し付けられました。身に余る光栄です」

 そう、口にした。
 王女?
 王女っていうと、アレですか? 国のお姫様?
 今時、王政を取ってる国というと―――じゃなくて。何で私がそんな国賓待遇を受けるのかさっぱりわからないんですが?
 ていうか、問題はそこじゃない。
 ここは日本じゃないって事…?

「私は侍女巫女です。以前は給仕関係の役目に付いておりましたので、食べ物の好き嫌いがありましたら何なりとお申し付け下さいませ。私の方から給仕長へ話しをしますので」

 また謎な単語が出ました。侍女巫女って何?
 いや、侍女と巫女はそれぞれわかるけど。何その合体?

「それから、ここは、神聖レシル王国」

 にこにこと、笑顔のままで。
 意味不明な事をのたまった。
 待って、ちょっとどころか、かなり待って。意味がわかんないどころじゃない。
 神聖レシル王国って何? 聞いた事ないわ、そんな国。
 それとも私が知らないだけで地球にはそんな国があったって事?
 というか、パスポート使って海外渡航した覚えすら―――

「その王都レシリアに建つ、王城の一室です。勇者様」

 私の思考は全面停止した。
 むしろ動きも。

 国がどうとか、王都がどうとか、王城とか、ツッコミどころは満載だったけど、そんな言葉はどうでもいい。
 彼女の口にした一言が、全て。
 “勇者様”―――――。
 そう口にした視線の先にいるのは、間違いなく私。 そもそも私と彼女以外にこの部屋にはいないけれど。
 私を見て、はっきりと、そう言ったのだ。
 それはつまり、私が“それ”という事になる訳で。
 驚くとか喜ぶとか怒るとか哀しむとか、そんなの全部投げ捨てて。
 疑問に思うのも忘れて、ただ、私は固まるしかなかった。



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※召喚、2週間後。


1.あなたのお名前を教えて下さい。
  「斎賀琥珀。
   サイはね、斉藤さんの斉っていうのの1ランク上の難しい斎。
   1番難しい、齋っていうのじゃないよ。
   んで、ガはね、賀正のガ!
   コハクはね、鉱石の琥珀ってののまんまの字」

2.元の世界におけるあなたの身分を教えて下さい(学生、社会人等)
  「大学を出て、じーちゃんの後を次いで会社の社長になっちゃった。
   何で兄貴じゃなくてオレ何かなって思ったけどさ、じーちゃんが、
   琳子が付いてるから大丈夫って言うからイケるって思ったんだよなぁ。
   昔っから琳子がいれば何があっても平気だったからさ」

3.あなたの年齢を教えて下さい。
  「22歳。―――どうせ童顔だよ…ちくしょぉぉお」

4.あなたの性別を教えて下さい。
  「男。どっこをどう見ても男!
   いいか、男に可愛いなんて言っちゃ駄目なんだかんな!!」

5.あなたが召喚された(迷い込んだ)世界はどのようなところですか?
  「よくわっかんね。言葉通じないし。
   あ、独りだけ通じるヤツがいたよ、エライヤツみたいだったけど。
   とりあえず、琳子が無事でよかったんだけどさ~……はぁ。
   逢いたいけどさ~怖ぇええ」

6.その世界の文化レベルはどれくらいですか?
  「牢の中から部屋へ変わったんだけど外から鍵かかってさ、
   全然自由に出歩けないから何もわかんねぇよ~。
   ぁーでも、初めて連れてかれて言葉のわかるヤツにあったトコは、
   普通に書斎っぽぃ感じのトコだった。赤絨毯引いてあったけど。
   だから低くはないと思うんだよな。
   何か昔のトイレみたいなの牢屋にはあったし、
   部屋へ移った後はトイレが別にあったし。
   何つーかいわゆるぼっとんだけどな!!(爆笑)
   でもま~、飯は美味い!
   だから飢餓レベルとかってんじゃねーと思う。多分」

7.その世界では戦争をしていますか?
  「わかんねぇし…。
   でも侵略がどうのって言ってるから、物騒っちゃ物騒なのかなー」

8.剣、魔法、竜など、もとの世界では有り得ないものが存在しますか?
  「人間じゃないのはいっぱい見たよ。
   つーか人間がいないっぽぃよ、ここ!
   後、空飛んでるのとかSFXみたいなのとか」

9.正直な話、召喚された時どう思いましたか?
  「感動したね!
   男だったら一度は夢みるだろ? そういうもんって。
   ―――ま、すぐに捕まったから情けなさ過ぎなんだけどさ」

10.誰かに拾われましたか? もしくは生活を保障してくれる人と出会いましたか?
  「捕まった。
   ちゃんと食事出るし、今んとこ命の危険もなさそうな雰囲気だけどさ。
   でもつまんねぇし、琳子に怒られそうで怖いし…」

11.その人はどんな人ですか?
  「兵隊? みたいなヤツ。
   オレの面倒見てくれてるのも同じようなヤツだけど、
   それを命令したのは此処に連れて来られた時に逢った……。
   何てったっけか、ガズ…じゃなくて、ガジ…じゃなくて。
   まぁ、ガなんとかって男。
   黒髪でさーデコに眼があったんだよ。カッコイイとか思っちゃった。
   あはははははっ!!」

12.異世界におけるあなたの身分は何ですか?
  「何だろ…?
   とりあえず部屋に押し込められてるよ。
   牢屋じゃないだけマシだけど………捕虜?
   だとしたらエライ待遇いい気はするが」

13.それはどのような身分(あるいは役職)ですか?
  「さぁ?
   それより、これからどうなるのか教えて欲しいよ。
   オレ此処から出られんかな~、琳子に怒られるよぉ」

14.あなたの身分は高いですか? それとも低いですか?
  「捕まってる時点で……」

15.その身分に満足していますか?
  「出たいよ、満足なんかするか!
   ―――あーでも、喰いモノが上手いってのは捨てがたいっ!!」

16.友達、恋人、主君、部下など、特別な人は出来ましたか?
  「無理だろ…」

17.その人はどんな人ですか?(複数いる場合は好きなだけ答えて下さい)
  「イジメか?」

18.人間関係はうまくいっていますか?
  「会話が成立しないし、シカトされてるし、無理だろ…。
   琳子、助けてくれーっ!」

19.異世界で「これだけは我慢出来ない」ということはありますか?
  「会話できるヤツとしゃべりてぇええええ。
   後TVはないし、漫画もないし、ゲームもないし…ありえねぇ」

20.逆に「元の世界よりずっといい」と思うところは?
  「仕事しなくていいとこ?」

21.異世界で達成しようとしている目的はありますか?
  「ないよ。出られないし」

22.それはどんな目的ですか?
  「…………」

23.異世界で身につけた特技はありますか?(剣技、馬術など)
  「独りで3人分の会話をする事!
   ―――自慢できねぇえええええっ!!」

24.もう一般人(地球人)には戻れないと思いますか?
  「それはナイ。絶対ない。だって琳子がいるもん。
   不可能を可能にするぜ、琳子は。だからへーき。
   絶対オレの事も助けに来てくれるし、家にだって帰れる」

25.なぜ、自分が異世界に召喚された(迷い込んだ)んだと思いますか?
  「――――さ、さぁ?(視線逸らし)」

26.あなたは何か重大な使命を帯びていますか?
  「元いた場所では、一応会社の社長でエライ人なんだよ。
   一応……。今はただの……」

27.元の世界に帰りたいですか?
  「うん。
   いや、帰れなくてもいいから、琳子に逢いたい。
   怒られる前にとりあえず、土下座コースだよ、コレ…」

28.元の世界に帰る場合、「これだけは持って行きたい」というものはありますか?(連れて行きたい人でも可)
  「喰いモンが上手いから、そのレシピとか欲しいな~。
   もらえないかなぁ」

29.元の世界に戻るか、異世界に残るかを選べるとします。あなたはどちらを選びますか?(自分がどちらを選ぶと思うか、でも可)
  「帰らないと怒られるよ、琳子に」

30.お疲れ様でした。最後に一言どうぞ。
  「琳ちゃん、ごめんなさいぃいいいいいっ!!!!」


※質問はコチラのサイト様からお借りしています。
  La・campanella ~ラ・カンパネラ~ 様
※召喚、2週間後。


1.あなたのお名前を教えて下さい。
  「松浪琳子、ま、つ、な、み、り、ん、こ、です。
   変な発音にしたり、勝手に略さないで下さいね」

2.元の世界におけるあなたの身分を教えて下さい(学生、社会人等)
  「社長秘書です」

3.あなたの年齢を教えて下さい。
  「先月、26歳になりました」

4.あなたの性別を教えて下さい。
  「女性です」

5.あなたが召喚された(迷い込んだ)世界はどのようなところですか?
  「RPGに出てくるような世界。
   私が本来いるべき世界からすると、
テレビドラマやアニメの勧善懲悪物に多い、
   変身途中は攻撃しないといったような状況が普通に展開されています。
   正直、バカかと思います」

6.その世界の文化レベルはどれくらいですか?
  「私がいる所の生活水準は高いですね。
   中世のヨーロッパあたりのような印象を一見受けるのですけど、
   特に不便を感じないので生活水準はその当時より高いと思います。
   ただ、電気機器等は存在していませんが、
   同じ役割を魔法で担っているみたいですね」

7.その世界では戦争をしていますか?
  「国家間の争いというのはあるみたいです。
   ただ、現在お世話になっている所は平和そのもので、
   物語にある楽園みたいな印象を受けますね」

8.剣、魔法、竜など、もとの世界では有り得ないものが存在しますか?
  「ええ、お陰で大変困っています。
   人でない方々に関しては、
   時期の経過と共に容姿が違うだけですので慣れましたけど。
   剣に関しては学生時代剣道を精神鍛錬の一環として倣っていた程度で、
   命のやりとりなんて当然無理です。
   それに魔法なんて、そんなモノ使える訳がないじゃないですか…」

9.正直な話、召喚された時どう思いましたか?
  「性質の悪い冗談だと思いました。
   新商品の説明とテストを見るための会議へ向かう途中だったので、
   それだと思いました。
   リアルな体感RPGでしたし。間が悪すぎます」

10.誰かに拾われましたか? もしくは生活を保障してくれる人と出会いましたか?
  「最初に、こ…――――それはいいとして、
   頭に角を生やした筋肉質な方に襲われて、崖から落ちて、
   気付いたら私をこんな目に合わせた張本人に遭遇した、と。
   生活は保障されてますね。
   賃金を払えないので、その分は労働で返しているつもりです」

11.その人はどんな人ですか?
  「国の宰相を務めていて、ラッセル・アルベッキーノという方です。
   はた迷惑な話ですが、髪も眼も驚くくらい真っ白、肌も青白くて、
   難病を患っている方かと怒るよりも先に心配してしまったのが、
   初対面の印象です」

12.異世界におけるあなたの身分は何ですか?
  「身分……(凄く嫌そうな顔をして)、勇者とか呼ばれてます。
   身に覚えがないので辞めて欲しいのですけれどね…」

13.それはどのような身分(あるいは役職)ですか?
  「保護して下さった聖レシル王国において、
   王国存亡の危機、かつ、国民が直接手を下せない状況に陥った際に、
   余所(異世界)から人手を調達してきて、
   その問題を解決するという役目のようですね。
   過去に同じ目にあった方の文献を読ませて頂いた事と、
   色々な方の話を聞いての私の勝手な介錯ですが」

14.あなたの身分は高いですか? それとも低いですか?
  「高い低いというよりも、重宝されているという印象を受けます…。
   正直、凄く嫌です」

15.その身分に満足していますか?
  「嫌です。私は普通の生活がいい」

16.友達、恋人、主君、部下など、特別な人は出来ましたか?
  「今の所、友達は出来ましたけれど、特別と断言出来る人はいません。
   強いて言うなら、色々身の回りの事を気にかけてくれてるリエかな?
   妹みたいで可愛いんです」

17.その人はどんな人ですか?(複数いる場合は好きなだけ答えて下さい)
  「余り言いたくないけど、答えないと駄目なの?
   リエは、年の割に子供っぽぃというか純粋というか単純と言うか…。
   世間知らずではないのに保護欲をそそる存在と言いますか(苦笑)
   何ていうか、不思議な子です。
   大抵の事はこなせる、しっかりした女性なんですけどね」


18.人間関係はうまくいっていますか?
  「身近な所は上手くいってます。
   外の事は人の関係がよくわからないので何とも言えませんが、
   今の所、私にとっての難点は琥珀ですね。
   あのバカ!」

19.異世界で「これだけは我慢出来ない」ということはありますか?
  「男の琥珀が捕らわれのお姫様で、私が勇者と呼ばれてる所。
   逆でも嫌ですが…」

20.逆に「元の世界よりずっといい」と思うところは?
  「空気が綺麗です。
   自然も綺麗で、上手く調和できている所ですね。
   そういう所は凄く良いと思います」

21.異世界で達成しようとしている目的はありますか?
  「はい、あります。
   勇者と呼ばれても私はそんなモノではないので、
   彼らの望む結果を出せるとは思いませんし、
   私個人の目的とは別件になりますね」

22.それはどんな目的ですか?
  「琥珀を一発殴って、説教して、元の世界へ帰る事です。
   仕事へ行く途中でしたし」

23.異世界で身につけた特技はありますか?(剣技、馬術など)
  「特にありません。
   強いて言うならこの世界の言語を学習している途中です」

24.もう一般人(地球人)には戻れないと思いますか?
  「いえ、絶対に帰ります。仕事がありますから」

25.なぜ、自分が異世界に召喚された(迷い込んだ)んだと思いますか?
  「琥珀のせい。
   絶対そう!
   昔から、私にとって厄介ごとしか持ってこない疫病神なんだからっ!」

26.あなたは何か重大な使命を帯びていますか?
  「重大かどうかはわからないんですよね、実際問題として。
   だって一応…平和といえば平和なんです、此処。
   時々勘違いした変なのが来ますけど」

27.元の世界に帰りたいですか?
  「帰りたいです。
   業務が気になりますし、お爺様の様態だってとても心配です」

28.元の世界に帰る場合、「これだけは持って行きたい」というものはありますか?(連れて行きたい人でも可)
  「琥珀。首輪でも付けて繋いでおこうと思います、本気で」

29.元の世界に戻るか、異世界に残るかを選べるとします。あなたはどちらを選びますか?(自分がどちらを選ぶと思うか、でも可)
  「帰ります。
   馴染んできてるって言われますが、やっぱり私は異邦人ですからね」

30.お疲れ様でした。最後に一言どうぞ。
  「有り難うございました。
   琥珀を見かけたら、首を洗っておきなさいって伝えておいて下さいね」


※質問はコチラのサイト様からお借りしています。
  La・campanella ~ラ・カンパネラ~ 様