徒然なる、谺の戯言日記。
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09 繋がる記憶
私が思案するように押し黙り、場が静かになった。
決して、私が薄笑みを浮かべていたからではない筈。
「リンコ様。言い忘れましたが」
「何?」
「もう一つ、根拠があります。リンコ様が勇者だという、確かな根拠…というよりは、証ですね」
「何?」
ぴくりと“勇者”という単語に眉が攣りあがる。
言った本人もわかっていて口にしたのだろうけど、何故か苦笑していた。
「言葉が通じます」
「はい?」
「リンコ様のいた世界と、ここは違える世界ですよね?」
「……世界、というか」
ゲームの中だから、違うのは当たり前というか。
「確かに、違う。知らない国名が出てるし、魔王までいるから」
「リンコ様のいた世界には、魔王はいなかったのですね」
「いないね」
「では、魔族や、竜族や、精霊や 「いないから」
「……リンコ様のいた世界って不思議なところですね」
何故かキラキラした目をしているリエがぽつりと呟いた。
俗に言う夢みる乙女みたいに。
「不思議というか、私にとってはそれが普通なんだけれど。それで、それがどうかしたの?」
「え、ああ…。この世界で使われている言語は、リンコ様のいた世界で使われていた言語と違うものなんです。それなのに言葉が通じている、会話が成立するという事が、証拠です」
「…どこらへんが?」
「召喚の儀式の際に扱う“陣”には、この世界の言語を理解するというものが組み込まれておりますから」
それは便利機能。
でも、ストーリーが矛盾しているのに、こういうところはきちんと説明がある。
やっぱり可笑しい、これ……。
「それで会話が成立する、と?」
「ええ、そうです。文字も読める筈ですよ」
にこやかにそう告げて、懐から折りたたまれた紙を一枚取り出した。
芸が細かい、ヘンなところの芸が。別にいらない説明だと思うんだど、これ…。
いや、確かに、自身が異世界へ行ってしまった、というのを体感できるという意味では、有りかもしれないが。
「どうぞ」
きちんと開いたその紙を、短い科白と共に差し出して。
何だかな、と思いつつ受け取る私。
そこまでは、良かったんだけど。
「どうかなされましたか?」
苦笑して紙を受け取った私の顔が、それを目にした途端、怪訝そうなものに変わり、訝しげな声をラッセルが上げる。
どうしたもこうしたもない。
「―――読めない」
間を置いて、きっぱりと私は答えた。
見たこともない文字が連なっている。真面目に読めない。
英語とかならまだ少しは…って気がするけど、何語よ。これ。
強いて言うなら、パピルスに書いてあったエジプト文字に似てるけれど。象形文字って言うんだっけか?
それを丸文字で書きました、みたいな文字。
読めるわけない。
「まさか!」
何故か大慌てのラッセル。
私から紙を取り戻して、何故か私と紙を交互に見つめている。
何故か蒼白――元々だけど――さらに青褪めたような顔になっている。今度こそ倒れそう。
そこまで慌てる事? プログラムに欠陥が見つかってる時点で、こういう自体があっても別におかしくないし。
……ああ、そうか。NPCとしては当然の反応―――
「って、ちょっと待って。そういう反応しないよね、普通。スルーするでしょ、スルー」
「何をおっしゃいますか、召喚の儀式の“陣”には、確かに言葉も通じ、文字も読めるよう文言が刻まれているのですよ。それなのに読めないなんて有り得ません。儀式が失敗……いや、けれど、リンコ様はここにいらっしゃるし…」
「ラッセル様、落ち着いて下さい」
「リエ、これは由々しき事態ですよ、そのように暢気な―――ああ、そうか!!」
弾かれたように叫び声を上げる。
倒れそうと心配していた私は当然驚いたけれど、何故か傍にいたリエまでぎょっとしたような顔をしている。
「わかりました、そういうことですね」
「いや、何が?」
「本来“一人”しかいないはずの勇者、その召喚の儀式。現れるのは一人だけなのです、それなのにリンコ様には従者の方がいたからですね。おそらく、文字に関する内容がお二人それぞれにわかれて継承されているのではないかと」
「…待って。一人って? 元々従者付きじゃないの?」
「いえ、一人です。儀式に応じて現れるのは、勇者、ただ一人です」
「それってどういう事…? 設定ミス…?」
「設定、とは?」
「こちらの話だから気にしないで。それより、元々、一人なのは間違いないのね?」
「はい、確かに。―――申し訳ありません、私が遅れたばかりに」
心底申し訳なさそうな顔。
病的な外見にプラスされて、今にも死にそうな表情になる。
思わず心配しそうになるけど、リエはそんな事ないし、ここまでで彼はそういう外見で中身は健康と認識してるから大丈夫……ていうか、わかってても不安になる。倒れないか、この人(?)。
でも、今、それより気になるのが、何度か出てる、その言葉。
「いや、それは別にいいんだけど……。遅れたってどういう事?」
「はい。思えば、こちらへ出る場所がずれていたのですから、その時に気付くべきでした」
「ずれてた?」
「はい。本来ならば、この城の中庭に現れるはずだったのですが」
そんな目立つところに出なくてよかった、そう内心呟いた。
「それがずれてヘンなところに出たから、私は気絶してたって事?」
「いえ、違いますが」
「私、気絶してたのよね? 実際、気付いたらここで寝てたんだし」
「―――リンコ様、覚えていらっしゃらないんですか?」
何故か驚いた顔をされる。
いや、名前を名乗ってる時点で記憶喪失とかじゃないってわかると思うけれど…。
「記憶喪失じゃないけど?」
「いえ、そうではなく。リンコ様、崖から落ちたんですよ?」
「はい…?」
「儀式は成功したのに、お姿が見えないので、慌てて検索の魔法をかけたんですが」
魔法……そこはRPGっぽぃ。
魔王がいるからあってもいいのか、それは。
「国の南方にいると反応が出たので、すぐ迎えに行ったのです。魔王の手の者が襲いかかっている姿が見えて、お助けしなければと思ったところで、リンコ様が崖から落ちて」
「…間抜けな」
「そこで私は、リンコ様の落下地点へと回り込み無事に助けられたのですが……その後で崖の上まで浮上してみましたところ、従者の方を連れ去る魔王の手の者の姿が、その、すでに遥か遠くへ」
「……魔王の手の者ってどうしてわかるの?」
「見覚えのある方でしたから」
「街を襲ってたっていう人?」
「いえ、何度かここへもいらっしゃった事のある、外交をされている、魔王の側近の方です」
「……何だかな。何でそんな人が誘拐?」
「多分、この国の地理に詳しいからではないかと」
「納得出来るような、出来ないような……」
しかし、崖から落ちた?
そこはかとなく、そんな夢を見たような気がするけれど…。
あれは夢だろうし、いや、でも言われてることに符号する個所が多いから、このゲームのオープニングというヤツなのかもしれな―――
「待って。私、いつ付けた?」
「「はい?」」
「あ、ごめん、違う。こっちの話。少し待って、頭の整理してるから」
適当に誤魔化して。
ここがゲームの中だとして、その住人にゲームとか言っても無駄だろうから。
私、大切な事を忘れてる。
まず、あのゲームをプレイするにはそれなりの装置をつける必要があるという事。
とはいえ、インカム付きのヘッドギアと手袋と足首と、センサーのついたモノつけるだけなんだけど。
私はそれを付けた覚えがない。
寝てる間につけられる可能性はゼロ。私はそういうのに敏感で、些細な物音でも目を覚ますから。……睡眠薬でも盛られたら起きないだろうけど、流石にそこまではしないだろうし。
そうするなら、起きてる時。でも自分で付けた記憶がない。
第一、どうしてスーツ姿なのかわからない。
これって、こういう服装ってプログラミングされてるって事だよね?
RPGには有り得ない服装。
それに、スカートだし。私はきちんと女性でここにいるし、経った時の目線の感じがいつもと同じだった。
そうすると、最初から、これは私に合わせてプログラミングされたってことになる。
でも、その可能性は有り得ない。
そもそもテストプレイヤーをどうするか、という話を会議で―――
「あ、れ…?」
茫然と、本当に茫然と呟いた。
会議に出席した記憶がない。
でも、出社するの時に着てたスーツ姿なわけで。
そもそも、それすら夢で、今もまだ布団の中で寝てる―――わけはないね。
私は水を飲んだ。喉を通り抜ける、あの冷たい感覚は夢では有り得ない。
そもそもこんなに意識のはっきりした連続性のある夢は有り得ない。
だから、これは夢じゃない。
夢じゃないなら、これは何?
体感RPG、という答え以外見つからないけど、私はそのための装置をつけた記憶がない。
どういう事?
記憶が混乱してる、自分の記憶が怪しい。どこからが現実でどこからが―――ああ、これが体感RPGの欠点だった。区別が付かなくなる。
それなら記憶がないけど、知らない間にあれを付けてるって事になる。
そんな馬鹿な話、あってたまるか。
最悪。本当に最悪だ、自分の記憶すら曖昧になるなんて。
落ち着け、落ち着け、落ち着いて―――
私、事故ったんじゃなかったっけ?
唐突に出てきたそれに、有り得ない事だけれど、やっと、記憶が繋がった。
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私が思案するように押し黙り、場が静かになった。
決して、私が薄笑みを浮かべていたからではない筈。
「リンコ様。言い忘れましたが」
「何?」
「もう一つ、根拠があります。リンコ様が勇者だという、確かな根拠…というよりは、証ですね」
「何?」
ぴくりと“勇者”という単語に眉が攣りあがる。
言った本人もわかっていて口にしたのだろうけど、何故か苦笑していた。
「言葉が通じます」
「はい?」
「リンコ様のいた世界と、ここは違える世界ですよね?」
「……世界、というか」
ゲームの中だから、違うのは当たり前というか。
「確かに、違う。知らない国名が出てるし、魔王までいるから」
「リンコ様のいた世界には、魔王はいなかったのですね」
「いないね」
「では、魔族や、竜族や、精霊や 「いないから」
「……リンコ様のいた世界って不思議なところですね」
何故かキラキラした目をしているリエがぽつりと呟いた。
俗に言う夢みる乙女みたいに。
「不思議というか、私にとってはそれが普通なんだけれど。それで、それがどうかしたの?」
「え、ああ…。この世界で使われている言語は、リンコ様のいた世界で使われていた言語と違うものなんです。それなのに言葉が通じている、会話が成立するという事が、証拠です」
「…どこらへんが?」
「召喚の儀式の際に扱う“陣”には、この世界の言語を理解するというものが組み込まれておりますから」
それは便利機能。
でも、ストーリーが矛盾しているのに、こういうところはきちんと説明がある。
やっぱり可笑しい、これ……。
「それで会話が成立する、と?」
「ええ、そうです。文字も読める筈ですよ」
にこやかにそう告げて、懐から折りたたまれた紙を一枚取り出した。
芸が細かい、ヘンなところの芸が。別にいらない説明だと思うんだど、これ…。
いや、確かに、自身が異世界へ行ってしまった、というのを体感できるという意味では、有りかもしれないが。
「どうぞ」
きちんと開いたその紙を、短い科白と共に差し出して。
何だかな、と思いつつ受け取る私。
そこまでは、良かったんだけど。
「どうかなされましたか?」
苦笑して紙を受け取った私の顔が、それを目にした途端、怪訝そうなものに変わり、訝しげな声をラッセルが上げる。
どうしたもこうしたもない。
「―――読めない」
間を置いて、きっぱりと私は答えた。
見たこともない文字が連なっている。真面目に読めない。
英語とかならまだ少しは…って気がするけど、何語よ。これ。
強いて言うなら、パピルスに書いてあったエジプト文字に似てるけれど。象形文字って言うんだっけか?
それを丸文字で書きました、みたいな文字。
読めるわけない。
「まさか!」
何故か大慌てのラッセル。
私から紙を取り戻して、何故か私と紙を交互に見つめている。
何故か蒼白――元々だけど――さらに青褪めたような顔になっている。今度こそ倒れそう。
そこまで慌てる事? プログラムに欠陥が見つかってる時点で、こういう自体があっても別におかしくないし。
……ああ、そうか。NPCとしては当然の反応―――
「って、ちょっと待って。そういう反応しないよね、普通。スルーするでしょ、スルー」
「何をおっしゃいますか、召喚の儀式の“陣”には、確かに言葉も通じ、文字も読めるよう文言が刻まれているのですよ。それなのに読めないなんて有り得ません。儀式が失敗……いや、けれど、リンコ様はここにいらっしゃるし…」
「ラッセル様、落ち着いて下さい」
「リエ、これは由々しき事態ですよ、そのように暢気な―――ああ、そうか!!」
弾かれたように叫び声を上げる。
倒れそうと心配していた私は当然驚いたけれど、何故か傍にいたリエまでぎょっとしたような顔をしている。
「わかりました、そういうことですね」
「いや、何が?」
「本来“一人”しかいないはずの勇者、その召喚の儀式。現れるのは一人だけなのです、それなのにリンコ様には従者の方がいたからですね。おそらく、文字に関する内容がお二人それぞれにわかれて継承されているのではないかと」
「…待って。一人って? 元々従者付きじゃないの?」
「いえ、一人です。儀式に応じて現れるのは、勇者、ただ一人です」
「それってどういう事…? 設定ミス…?」
「設定、とは?」
「こちらの話だから気にしないで。それより、元々、一人なのは間違いないのね?」
「はい、確かに。―――申し訳ありません、私が遅れたばかりに」
心底申し訳なさそうな顔。
病的な外見にプラスされて、今にも死にそうな表情になる。
思わず心配しそうになるけど、リエはそんな事ないし、ここまでで彼はそういう外見で中身は健康と認識してるから大丈夫……ていうか、わかってても不安になる。倒れないか、この人(?)。
でも、今、それより気になるのが、何度か出てる、その言葉。
「いや、それは別にいいんだけど……。遅れたってどういう事?」
「はい。思えば、こちらへ出る場所がずれていたのですから、その時に気付くべきでした」
「ずれてた?」
「はい。本来ならば、この城の中庭に現れるはずだったのですが」
そんな目立つところに出なくてよかった、そう内心呟いた。
「それがずれてヘンなところに出たから、私は気絶してたって事?」
「いえ、違いますが」
「私、気絶してたのよね? 実際、気付いたらここで寝てたんだし」
「―――リンコ様、覚えていらっしゃらないんですか?」
何故か驚いた顔をされる。
いや、名前を名乗ってる時点で記憶喪失とかじゃないってわかると思うけれど…。
「記憶喪失じゃないけど?」
「いえ、そうではなく。リンコ様、崖から落ちたんですよ?」
「はい…?」
「儀式は成功したのに、お姿が見えないので、慌てて検索の魔法をかけたんですが」
魔法……そこはRPGっぽぃ。
魔王がいるからあってもいいのか、それは。
「国の南方にいると反応が出たので、すぐ迎えに行ったのです。魔王の手の者が襲いかかっている姿が見えて、お助けしなければと思ったところで、リンコ様が崖から落ちて」
「…間抜けな」
「そこで私は、リンコ様の落下地点へと回り込み無事に助けられたのですが……その後で崖の上まで浮上してみましたところ、従者の方を連れ去る魔王の手の者の姿が、その、すでに遥か遠くへ」
「……魔王の手の者ってどうしてわかるの?」
「見覚えのある方でしたから」
「街を襲ってたっていう人?」
「いえ、何度かここへもいらっしゃった事のある、外交をされている、魔王の側近の方です」
「……何だかな。何でそんな人が誘拐?」
「多分、この国の地理に詳しいからではないかと」
「納得出来るような、出来ないような……」
しかし、崖から落ちた?
そこはかとなく、そんな夢を見たような気がするけれど…。
あれは夢だろうし、いや、でも言われてることに符号する個所が多いから、このゲームのオープニングというヤツなのかもしれな―――
「待って。私、いつ付けた?」
「「はい?」」
「あ、ごめん、違う。こっちの話。少し待って、頭の整理してるから」
適当に誤魔化して。
ここがゲームの中だとして、その住人にゲームとか言っても無駄だろうから。
私、大切な事を忘れてる。
まず、あのゲームをプレイするにはそれなりの装置をつける必要があるという事。
とはいえ、インカム付きのヘッドギアと手袋と足首と、センサーのついたモノつけるだけなんだけど。
私はそれを付けた覚えがない。
寝てる間につけられる可能性はゼロ。私はそういうのに敏感で、些細な物音でも目を覚ますから。……睡眠薬でも盛られたら起きないだろうけど、流石にそこまではしないだろうし。
そうするなら、起きてる時。でも自分で付けた記憶がない。
第一、どうしてスーツ姿なのかわからない。
これって、こういう服装ってプログラミングされてるって事だよね?
RPGには有り得ない服装。
それに、スカートだし。私はきちんと女性でここにいるし、経った時の目線の感じがいつもと同じだった。
そうすると、最初から、これは私に合わせてプログラミングされたってことになる。
でも、その可能性は有り得ない。
そもそもテストプレイヤーをどうするか、という話を会議で―――
「あ、れ…?」
茫然と、本当に茫然と呟いた。
会議に出席した記憶がない。
でも、出社するの時に着てたスーツ姿なわけで。
そもそも、それすら夢で、今もまだ布団の中で寝てる―――わけはないね。
私は水を飲んだ。喉を通り抜ける、あの冷たい感覚は夢では有り得ない。
そもそもこんなに意識のはっきりした連続性のある夢は有り得ない。
だから、これは夢じゃない。
夢じゃないなら、これは何?
体感RPG、という答え以外見つからないけど、私はそのための装置をつけた記憶がない。
どういう事?
記憶が混乱してる、自分の記憶が怪しい。どこからが現実でどこからが―――ああ、これが体感RPGの欠点だった。区別が付かなくなる。
それなら記憶がないけど、知らない間にあれを付けてるって事になる。
そんな馬鹿な話、あってたまるか。
最悪。本当に最悪だ、自分の記憶すら曖昧になるなんて。
落ち着け、落ち着け、落ち着いて―――
私、事故ったんじゃなかったっけ?
唐突に出てきたそれに、有り得ない事だけれど、やっと、記憶が繋がった。
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