徒然なる、谺の戯言日記。
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06 気付けば天蓋
もそもそと布団を頭まで引き上げる。
ごろっと左側を向き、すっぽり被った布団の中で開きかけた瞼を閉じた。
今日は何かあったような気がするけど。
僅かに浮上した頭で思うのはそんな事。
眠いし寝心地が良いから、もう少し―――
「って、会議っ!?」
慌てて飛び起きて、首を巡らす。
枕もとに置いてある時計で時間を確認しようとし―――――私の時間は停止した。
「何処よ、ここ…?」
視界に入ったのは、それはもうありえないくらいにゴテゴテした飾りと薄いブルーのレースが付いた、天蓋付きのベット。
どうして私はこんな所で寝てたんだろうか。
まかり間違っても、ここは私の部屋ではないし、そもそも、純和風作りの斎賀宅、こんなベットが存在しているわけがない。
茫然とするな、という方が無理だ。
頭を抱えるようにして、レースカーテンを押しのけながらベットから滑り降りて周囲を改めて見回した。
その視界に映るのは、多分、12畳くらいの広さの室内。
「悪趣味な」
正直な感想。
一言で済ませればヨーロッパテイストといった所なんだろうけど、豪奢な作りも、きらびやかな装飾品も、純和風の落ち着いた雰囲気――寺だけに――で育った私からすれば、余計なもののように思える。
普通の女の子だったら喜ぶかもしれないけど。
私は部屋に余り物を置かないし、シックな色合いで纏めるのが好きだし。
電気は付いてないけど光が差し込んで明るい室内に、首を傾げるよりも早く数歩進んだところで結論が出た。
ベットの向こう側、日本の家とは思えないくらい高い天井から床まで伸びるのは、これまた薄いブルーのカーテン。全面カーテンである事を考えると、この部屋、片側は全部窓のようだ。ベットのある位置はきっちり閉じられていたが、それ以外の場所は開かれていて、薄手の白いレースカーテンだけ、光はそこから届いていた。
ここはどこだろうかと思案しつつ、窓辺へと寄って行った私に、コンコン、と、2回、ドアをノックする音が届く。
くるりと反転した私に、返事も待たずにドアが開いた。
ゴテゴテしい飾りのドアノブ……とか余計な事を考えた私の前に、ドアの向こうから現した姿に、硬直する以外なかった。
コスプレ…?
何故か一礼し、目線は下げたまま部屋へと入ってくる。
静かにドアを閉じて、振り返り、改めて顔を上げて、やっと私と目があった。というか、私に気付いた、といった方が正しいかもしれない。驚いた顔で、その動きを停止させたから。
むしろ、驚きたいのはこちらなんですけど?
静かな時間が流れる。
私は訝しげな顔をしていたに違いないんだけど、相手は驚いた顔から、何故か嬉しそうな顔へ。
「お気づきになられたんですね」
花だ。花が飛んでる。
可愛らしい声でそう口にして、何故だか満面の笑み。
っていうか、誰?
「あ、どこか痛いところはありますか? それとお腹は空いてませんか? それから 「いや、あなた、誰?」
矢継ぎ早に言いながら歩み寄る姿に、身構えるようにして、それを遮った。
ぴたり、と足が止まる。
互いの距離は2メートルほど。
驚いたような顔になってから、何故か苦笑する。
言葉が通じなかった?
いや、でもしっかり日本語を口にしていたし、かなり流暢に。
「失礼致しました。―――私、リエ=ナセレイタと申します」
謝罪し、深々と一礼して、名乗った。
間違ってないけど、違う。
私が言いたいのはそういう事ではない。聞いた事もそうではない。
にこにこと微笑むその姿は、可愛らしい。
年齢は多分10代後半くらいだと思うけれど、顔立ちが日本人じゃないから断言出来ない。
緩やかに波打つ、ふわふわしてそうな髪は、柔らかな茶系の金髪だし、嬉しそうな色だけを浮かべてる瞳は鮮明な蒼。明らかに西洋系の顔とあわせて、絶対日本人じゃないと言える。
強いて言うなら、お人形さんみたいな感じだ。
文句なしの美少女。
美女と言わないのは、大人の女性という雰囲気を全く感じないから。
って、そうじゃない。私。落ち着け。
リエ=ナセレイタと名乗った姿を見つめる。
うん、見覚えはない。
名前にも聞き覚えはない。
知らない人、これだけは間違いない。だのに、何故に相手はこんなに嬉しそうな顔で私を見ているのか。
怪訝な顔してる人間をこれだけ満面の笑みを浮かべて見つめ返せるって、この人、頭のネジ緩んで―――って、落ち着こう、私。
何気に失礼な事を考えた自分に、思わず額に手を当てて、冷静に、冷静に、と繰り返す。
「あの、大丈夫ですか? 頭痛が? それともやはりどこか痛みますか?」
不安げな声をあげて近付く姿を、もう一度見つめる。
声と同じように心配してる顔、というか、オロオロしてる。
嘘を付いているようには見えないけれど、本当に、誰よ。
「大丈夫。別にどこも痛くないから」
「そうですか? 無理をされてませんか?」
「してないから。本当に平気」
「そうですか」
安堵したような声と、自分のことのように嬉しそうな笑顔。
でもそれ以上に気になったのが、すぐ傍まで来たからわかる、その身長差。
この子小さい…150ないんじゃないだろうか?
「ええと、リエさん? で、いいのかな? 確認するけど、初対面よね?」
「はい。こうしてお会いするのは初めてになりますが、リエで結構ですよ」
にこにこと、“さん”付けを訂正された。
初対面の割に妙な事を言う、というか…初対面の相手に対する態度?
明らかに、以前から私を知ってる人みたいな応対されてるような気がするんですけど?
「眠っていらっしゃったので、ご挨拶が送れましたが。私が身の回りをお世話させて頂きますから、敬称はいりませんので」
「は…?」
思わず阿呆な声を上げた。顔には出てないだろうけど、無理もない。
意味がわからない、身の回りの世話って、私、自分のことくらい自分で出来る―――て、そうじゃない。
「何故に、私が? というか、私の? あなた、どこの人? むしろ何処よ、ここ?」
何言ってるんだか、私。
でもそれって、きっと、正直な反応じゃないかと。
笑顔が崩れるかと思ったんだけど、その美少女――リエは、笑みを称えたまま―――
「ミルファ王女様から、そのように申し付けられました。身に余る光栄です」
そう、口にした。
王女?
王女っていうと、アレですか? 国のお姫様?
今時、王政を取ってる国というと―――じゃなくて。何で私がそんな国賓待遇を受けるのかさっぱりわからないんですが?
ていうか、問題はそこじゃない。
ここは日本じゃないって事…?
「私は侍女巫女です。以前は給仕関係の役目に付いておりましたので、食べ物の好き嫌いがありましたら何なりとお申し付け下さいませ。私の方から給仕長へ話しをしますので」
また謎な単語が出ました。侍女巫女って何?
いや、侍女と巫女はそれぞれわかるけど。何その合体?
「それから、ここは、神聖レシル王国」
にこにこと、笑顔のままで。
意味不明な事をのたまった。
待って、ちょっとどころか、かなり待って。意味がわかんないどころじゃない。
神聖レシル王国って何? 聞いた事ないわ、そんな国。
それとも私が知らないだけで地球にはそんな国があったって事?
というか、パスポート使って海外渡航した覚えすら―――
「その王都レシリアに建つ、王城の一室です。勇者様」
私の思考は全面停止した。
むしろ動きも。
国がどうとか、王都がどうとか、王城とか、ツッコミどころは満載だったけど、そんな言葉はどうでもいい。
彼女の口にした一言が、全て。
“勇者様”―――――。
そう口にした視線の先にいるのは、間違いなく私。 そもそも私と彼女以外にこの部屋にはいないけれど。
私を見て、はっきりと、そう言ったのだ。
それはつまり、私が“それ”という事になる訳で。
驚くとか喜ぶとか怒るとか哀しむとか、そんなの全部投げ捨てて。
疑問に思うのも忘れて、ただ、私は固まるしかなかった。
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もそもそと布団を頭まで引き上げる。
ごろっと左側を向き、すっぽり被った布団の中で開きかけた瞼を閉じた。
今日は何かあったような気がするけど。
僅かに浮上した頭で思うのはそんな事。
眠いし寝心地が良いから、もう少し―――
「って、会議っ!?」
慌てて飛び起きて、首を巡らす。
枕もとに置いてある時計で時間を確認しようとし―――――私の時間は停止した。
「何処よ、ここ…?」
視界に入ったのは、それはもうありえないくらいにゴテゴテした飾りと薄いブルーのレースが付いた、天蓋付きのベット。
どうして私はこんな所で寝てたんだろうか。
まかり間違っても、ここは私の部屋ではないし、そもそも、純和風作りの斎賀宅、こんなベットが存在しているわけがない。
茫然とするな、という方が無理だ。
頭を抱えるようにして、レースカーテンを押しのけながらベットから滑り降りて周囲を改めて見回した。
その視界に映るのは、多分、12畳くらいの広さの室内。
「悪趣味な」
正直な感想。
一言で済ませればヨーロッパテイストといった所なんだろうけど、豪奢な作りも、きらびやかな装飾品も、純和風の落ち着いた雰囲気――寺だけに――で育った私からすれば、余計なもののように思える。
普通の女の子だったら喜ぶかもしれないけど。
私は部屋に余り物を置かないし、シックな色合いで纏めるのが好きだし。
電気は付いてないけど光が差し込んで明るい室内に、首を傾げるよりも早く数歩進んだところで結論が出た。
ベットの向こう側、日本の家とは思えないくらい高い天井から床まで伸びるのは、これまた薄いブルーのカーテン。全面カーテンである事を考えると、この部屋、片側は全部窓のようだ。ベットのある位置はきっちり閉じられていたが、それ以外の場所は開かれていて、薄手の白いレースカーテンだけ、光はそこから届いていた。
ここはどこだろうかと思案しつつ、窓辺へと寄って行った私に、コンコン、と、2回、ドアをノックする音が届く。
くるりと反転した私に、返事も待たずにドアが開いた。
ゴテゴテしい飾りのドアノブ……とか余計な事を考えた私の前に、ドアの向こうから現した姿に、硬直する以外なかった。
コスプレ…?
何故か一礼し、目線は下げたまま部屋へと入ってくる。
静かにドアを閉じて、振り返り、改めて顔を上げて、やっと私と目があった。というか、私に気付いた、といった方が正しいかもしれない。驚いた顔で、その動きを停止させたから。
むしろ、驚きたいのはこちらなんですけど?
静かな時間が流れる。
私は訝しげな顔をしていたに違いないんだけど、相手は驚いた顔から、何故か嬉しそうな顔へ。
「お気づきになられたんですね」
花だ。花が飛んでる。
可愛らしい声でそう口にして、何故だか満面の笑み。
っていうか、誰?
「あ、どこか痛いところはありますか? それとお腹は空いてませんか? それから 「いや、あなた、誰?」
矢継ぎ早に言いながら歩み寄る姿に、身構えるようにして、それを遮った。
ぴたり、と足が止まる。
互いの距離は2メートルほど。
驚いたような顔になってから、何故か苦笑する。
言葉が通じなかった?
いや、でもしっかり日本語を口にしていたし、かなり流暢に。
「失礼致しました。―――私、リエ=ナセレイタと申します」
謝罪し、深々と一礼して、名乗った。
間違ってないけど、違う。
私が言いたいのはそういう事ではない。聞いた事もそうではない。
にこにこと微笑むその姿は、可愛らしい。
年齢は多分10代後半くらいだと思うけれど、顔立ちが日本人じゃないから断言出来ない。
緩やかに波打つ、ふわふわしてそうな髪は、柔らかな茶系の金髪だし、嬉しそうな色だけを浮かべてる瞳は鮮明な蒼。明らかに西洋系の顔とあわせて、絶対日本人じゃないと言える。
強いて言うなら、お人形さんみたいな感じだ。
文句なしの美少女。
美女と言わないのは、大人の女性という雰囲気を全く感じないから。
って、そうじゃない。私。落ち着け。
リエ=ナセレイタと名乗った姿を見つめる。
うん、見覚えはない。
名前にも聞き覚えはない。
知らない人、これだけは間違いない。だのに、何故に相手はこんなに嬉しそうな顔で私を見ているのか。
怪訝な顔してる人間をこれだけ満面の笑みを浮かべて見つめ返せるって、この人、頭のネジ緩んで―――って、落ち着こう、私。
何気に失礼な事を考えた自分に、思わず額に手を当てて、冷静に、冷静に、と繰り返す。
「あの、大丈夫ですか? 頭痛が? それともやはりどこか痛みますか?」
不安げな声をあげて近付く姿を、もう一度見つめる。
声と同じように心配してる顔、というか、オロオロしてる。
嘘を付いているようには見えないけれど、本当に、誰よ。
「大丈夫。別にどこも痛くないから」
「そうですか? 無理をされてませんか?」
「してないから。本当に平気」
「そうですか」
安堵したような声と、自分のことのように嬉しそうな笑顔。
でもそれ以上に気になったのが、すぐ傍まで来たからわかる、その身長差。
この子小さい…150ないんじゃないだろうか?
「ええと、リエさん? で、いいのかな? 確認するけど、初対面よね?」
「はい。こうしてお会いするのは初めてになりますが、リエで結構ですよ」
にこにこと、“さん”付けを訂正された。
初対面の割に妙な事を言う、というか…初対面の相手に対する態度?
明らかに、以前から私を知ってる人みたいな応対されてるような気がするんですけど?
「眠っていらっしゃったので、ご挨拶が送れましたが。私が身の回りをお世話させて頂きますから、敬称はいりませんので」
「は…?」
思わず阿呆な声を上げた。顔には出てないだろうけど、無理もない。
意味がわからない、身の回りの世話って、私、自分のことくらい自分で出来る―――て、そうじゃない。
「何故に、私が? というか、私の? あなた、どこの人? むしろ何処よ、ここ?」
何言ってるんだか、私。
でもそれって、きっと、正直な反応じゃないかと。
笑顔が崩れるかと思ったんだけど、その美少女――リエは、笑みを称えたまま―――
「ミルファ王女様から、そのように申し付けられました。身に余る光栄です」
そう、口にした。
王女?
王女っていうと、アレですか? 国のお姫様?
今時、王政を取ってる国というと―――じゃなくて。何で私がそんな国賓待遇を受けるのかさっぱりわからないんですが?
ていうか、問題はそこじゃない。
ここは日本じゃないって事…?
「私は侍女巫女です。以前は給仕関係の役目に付いておりましたので、食べ物の好き嫌いがありましたら何なりとお申し付け下さいませ。私の方から給仕長へ話しをしますので」
また謎な単語が出ました。侍女巫女って何?
いや、侍女と巫女はそれぞれわかるけど。何その合体?
「それから、ここは、神聖レシル王国」
にこにこと、笑顔のままで。
意味不明な事をのたまった。
待って、ちょっとどころか、かなり待って。意味がわかんないどころじゃない。
神聖レシル王国って何? 聞いた事ないわ、そんな国。
それとも私が知らないだけで地球にはそんな国があったって事?
というか、パスポート使って海外渡航した覚えすら―――
「その王都レシリアに建つ、王城の一室です。勇者様」
私の思考は全面停止した。
むしろ動きも。
国がどうとか、王都がどうとか、王城とか、ツッコミどころは満載だったけど、そんな言葉はどうでもいい。
彼女の口にした一言が、全て。
“勇者様”―――――。
そう口にした視線の先にいるのは、間違いなく私。 そもそも私と彼女以外にこの部屋にはいないけれど。
私を見て、はっきりと、そう言ったのだ。
それはつまり、私が“それ”という事になる訳で。
驚くとか喜ぶとか怒るとか哀しむとか、そんなの全部投げ捨てて。
疑問に思うのも忘れて、ただ、私は固まるしかなかった。
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