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This blog is Written by 小林 谺,Template by ねんまく,Photo by JOURNEY WITHIN,Powered by 忍者ブログ.
徒然なる、谺の戯言日記。
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 13 お試し期間


 落ちた時間は一瞬。
 けれど脳内では走馬灯――は、駆け巡らなかったけれど、足からいけば、何とか命は助かったりしないかな、とか安直な事を考えたりしていたわけで。

 どぐしゃ。ずずんっっ。

 どんな落下音よ……痺れたし。って、痺れた?

「―――生きてる…。よかった」

 よくわからないけれど、何とか無事に着地出来たみたい。
 それから上空を見上げる。
 顔は確認出来な―――見えるね。リエが青い顔をしてこちらを見下ろしているのが見て取れた。
 無事である事を告げる代わりに、手を振り返し―――

「大丈夫?」

 叫び声の主と思われる女の人を振り返った。
 何だか自分の目線が凄く高い位置にあるような気がしたけれど、それは今気にするべきところじゃない。
 振り返って目にしたその人は、何ていうか、茶色の柔らかそうな髪で、美人ってわけじゃないけれど可愛い感じの女性。驚いた顔のまま、無言でコクリと頷きを返してくれた。

 確かに、上からいきなり人が降って来たら驚くよね…。

 改めて自身の奇跡に感心した。
 勢いだけでやってしまったけれど、まさかアレだけ近くに聞こえた声が、こんな下の方からのものだとは思わなかった。というか、あんなに高いところにいたとも思わなかった、というか。

「危ないから、避難しててね」

 それに、一つの頷きと「ありがとう」と、小さな声を残して、よろよろと立ち上がった女性はそのまま逃げて行った。
 その背を見送って、私も安堵の息を吐き出す。
 色々な意味で、本当によかった…。

「なんだお前っ!」

 気が緩んだ私の背後で、声が上がる。
 何ていうか、ちょっと上の方から届けられる声。
 肩越しに振り返り……ああ、そういえば、と思い出す。
 例のドラゴンに乗った非人間がいたんだった、それどころじゃなかったから忘れてた。

「お前呼ばわりされる覚えはない」

 自然と声のトーンが下がる。

「いきなり出てきて何だ! 何て事してくれるんだよっ!!」
「何偉そうに上からモノ言ってるのよ、何様のつもり? か弱い女性相手に、格好悪いと思わないの?」
「お前の何処がか弱いんだ!」

 むかっ。
 確かに、私はか弱い部類には入らないだろうけど、初対面の癖に失礼極まりないでしょう、その科白。
 だいたい、私はさっき避難した女性の事を言ったのに。

「…確かに、私はか弱くないでしょうけれど。一般人の女性に対して、そんなモノに乗ってて襲いかかるなんてどういうつもりよ?」
「お前のことなんか襲ってないだろ!」
「さっき逃げてった女性の事よ」
「知らねぇよ!」
「……知らないで済むと思ってるわけ?」
「つーか何なんだよ、お前。そこどけっていい加減!!」

 何故か私の足元を指差して。
 しかも、どけって……何様よ、コイツ。しかも、きっちり襲ってるのをこの眼に見たのに。上からだけど。
 それに、助けてって叫んでたし、さっきの人。

「惚けようって事?」
「いいから、いつまで乗ってんだ! 早くどけっての!!」

 乗ってる?

 何故か必死になって訴えるその非人間は、どう見ても、人を襲って来てる風には見えない。
 というか、そういった緊張感がゼロなわけで。
 思わず、疑問のままに足元を見て、気付いた。
 そこには、上から叫ぶ非人間と似た姿の、やっぱり非人間と、ドラゴンが。

「……丁度いいところに落ちた、という事ね」
「何がだよっ!!」

 ヘンな落下音の正体は、つまりソレ。
 目線が高かったのも、このせいか。
 感触も何だか地面の割には柔らかいっていうか、足が痺れる程度ですんだもの、このせいかもしれない。

「五月蝿いわね、か弱い女性を襲ってたから天罰でしょ。実際上から落ちて来たんだし」

 言いながら躰ごと向き直り、上から見下ろすようにして叫んでるその姿を正面から見据える―――否、睨んだ。
 手加減する必要はないように思う。
 だって、人に危害を加えてるから。一方的に。
 これが戦争だっていうなら、正直関わりたくないけれど、魔王に組するこの方々は、何らかの勘違いを始まりとして、街へ攻撃を仕掛けて来ていた。
 誤解が解けるまで、と見逃していた。実際、国民の生活に直接結びつく被害が出てなかったせいだろうけれど。
 でも、今は違う。
 確かに人を襲っているのだ。
 今までとは明らかに、その行動に変化が出てる。

「つまり、自業自得って事」
「何がだっ! ―――って、お前……その、髪と眼の色。勇者!?」

 ぴしり。

 今、何かのたまった。
 睨んでいた私の顔は、今は多分、歪んだ笑みを浮かべてる。
 相手が明らかに怯んでるのがわかったから、間違いないだろう。

「本物だな、その色……。やっぱりか、やっぱり、ゆ 「勇者って言うなっ!!」

 ぼぐっ。

 一気に間合いを詰めて、思いっきり右の拳で殴りつけた。
 それから、普通に地に降り立つ。自然と躰が動いた。嫌な習性が付いてるな、と思いながら立ち上がる。

 ばきばきばき、どしゃっ。

 ………あれ? 上空にいた気がするのに、どうして殴れたんだろう?

 その疑問は、殴った後に湧いてきた。
 それから、殴った相手を確認しようと顔を上げて、思わず硬直する。
 幾ら思い切り殴ったとは言え、確かに、手加減するのも忘れたけれど、それはないよね?

 視線の先は、さっき落ちて来たのと同じくらい離れた場所の壁に埋まってる、非人間とドラゴンの姿。

「…有り得ない」

 思わず額に手を当てる。
 一つ目。上空に飛んでいた筈の相手なのに、普通に殴れてしまった。
 二つ目。あそこまで飛ばない。せいぜい、1、2メートルでしょう? 普通。
 三つ目。どうして壁に埋まってるのか。そんなコメディ漫画じゃあるまいし。

 ……どう考えても、可笑しいよね?

 今更ながらの自問自答。
 やってから言うのも何だけれど、流石に私、あそこまで動ける人間じゃなかった。というか、あんな事出来るってすでに人間じゃない気がする。
 その場飛びで、どう見ても5メートルくらい飛んでいた。
 可笑しい。これは、可笑しい。
 そもそも―――、一番初めからして可笑しかった。あの高さから落ちて、幾らクッション(酷)があったからと言って、無傷で済むわけがない。
 それに合わせて、あの距離を離れた人の顔を見分けられるほど、眼がよかったわけでもない。まぁ、悪くはなかったけれども。
 それに、人を、ドラゴンまでも、壁に埋め込んだりとか。出来るわけないし。

「―――つまり」

 呟く。
 導き出される結論は、哀しいくらいに一つだけ。
 ラッセルの言っていた、“力”、だ。
 その時々の情況によって、呼ばれて来る者によって、違える“力”。

「私は、コレって事ね」

 身体能力の向上。
 ううん、すでに向上なんていうレベルを超えている。今更の自覚だけれど。
 それによって急激な変化が齎されている筈なのに、自然と動いた躰。
 つまり、躰は、知っていた。
 それだけ動けるのだという事を自覚していた、当人が意識するよりも早く。

 はぁ、と溜息を吐き出すと、立っている辺りが影になった。

「今度は何よ?」

 見上げる。
 非人間が3人追加されていた。ばっさばっさと、背中の羽根で飛んでる。
 ………もう、何でもありだね。本当。

「勇者、発見!」

 ぴしり。

「オレが仕留める!」
「いやオレだ!」

 何故か、私そっちのけ言い合いを始める3人。
 これは宣戦布告と取っていいのよね?
 最初の科白からして、私に喧嘩を売っているのよね?
 やってきた3人で口論しているけれども。

 ……申し訳ないけれど、試させて貰う事にしようか。
 丁度、自分から出てきてくれたんだし、手加減はするにしても、どこまで動けるのか―――

「まてまて、相手は勇者だ。ナメてかかると痛い目を見るぞ。アイツみたいに」

 ぴき。

「ああ、そうだな。勇者だもんな」

 ぴきぴき。

「3人でかかれば勇者だろうと関係ない!」

 ぴきぴきっ。

「「「行くぞ、勇者!!」」」

 ―――流石に無理です。
 
「「「コレでも喰ら 「勇者って言うなっ!!!!」

 飛び上がる。
 勢いだけで、そのまま、丁度頭上に飛んでたヤツの顎にアッパーを食らわせて―――

「ぐぇ」

 怯んだソイツの頭を掴んで回転、右隣を飛んでる非人間目掛けて投げつけ―――

「ぐはっ」

 その勢いで、残った左隣の非人間目掛けて飛び蹴りをかました。

「何で!?」
「こっちの科白よっ!!」

 地に落ちる影が4つ。
 正確には、私だけは降り立った、という表現が似合うくらい、しっかり自分の足で立ってる。
 呻く声を上げて地に横たわる3人。

 ………よかった、生きてる。
 思わず勢いだけで殴りかかってしまったけれど、無事ならいい。
 呻いてるけれども、自業自得。
 私は、降りかかる火の粉を払っただけ。
 とりあえず、わりかしいい感じに動ける事はわかった。
 もう少しきちんと見てみないと、限界とかはわからないけれど、これなら全くの役立たずで終らなくて済みそうだと一安心した。



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