徒然なる、谺の戯言日記。
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14 哀しいお約束
どおおおん。
安堵の息を吐いた所で、ギャグとしか思えない音が聞こえた。
今度は何かと思いつつ頭を巡らし、
「有り得ない」
もう何度目になるかわからない科白を口にする。
視線の先には、高く高く天へと上る、火柱。
暫くして、それが消えて。
「本当、夢なら覚めて欲しい」
一人呟く。
けれどこれは哀しいくらい現実で。
どおおおん。
また同じ音がして、火柱が上がる。
それを眺めながらため息を一つ吐き出した。
「仕方ない」
大まかな方向しかわからないけれど、こことは違う方法―――多分に“魔法”とかいうものに部類する技なんだろうけれど。
火柱が上がっていた場所を目指し地を蹴った。
目的地はあっさりと見つかった。
定期的に上る火柱がいい目印になっていたから。とは言え、街の外れの方で、結構距離はあったけれど。
それよりも、問題は―――
「何がしたいのかわからない」
ため息混じりの正直な感想。
本気で茫然と立ち尽くした、何をやってるんだろう、と。
一定度の距離を保ち、街側と川側とに別れてる。
街側には、幾人かの人の姿。
そして、対する川側―――石造りの橋を背に立つ、非人間が5人。
「中々やるな!」
非人間5人衆の一人が声を上げる。
街を背に立つのは、3人。真っ白いコスプレ衣装に身を包み―――いや、その背後で怯えているふうの方々もそうなんだけれど。特にその3人は明らかにRPGに出てくるような、特殊な職業の服装。というかいわゆる神官服? 勿論、実際の神官が聞いたら怒りそうな気はするけれど。
「この程度で根を上げると思っているのか」
強気な発言だけれど、その姿は満身創痍という言葉がぴったりくる感じだし、表情には苦渋も見て取れる。
双方には何故か結構な距離が開いているから、互いの顔まで見えているかはわからないけれど。
「人間の魔力で魔族に叶うと思うな!」
非人間の1人が高らかに宣言し、5人衆が揃って何かをぶつぶつ言い始め、流石にそれは聞き取れなかったけれども、白い服の3人が何かに備えるようにして構え―――
「「「「「くらえっ!!」」」」」
見事なまでにハモった5人衆。
動作も綺麗に揃っていて、全員が同時に手のひらを前へと突き出し―――――炎が舞った。
「守りの壁!」
「「凪の風!」」
間髪入れずに白い服の3人が声を上げ、炎がその勢いを保ったまま進路を上空へと変えた。
同じように掌を突き出す姿は、向かい合う5人衆と等しい。
違うのは、3人は苦しそうっていうところ。
数秒の間をおいて炎が四散し―――
「中々やるな!」
―――以下、リピート。
補足しておくと、この光景が繰り返されるのは、私が此処へ着てから4度目。
正直な話、見飽きた。
額に手を当てて、重い息を大きく吐き出す。
そうしてる間にも、彼らは5度目の作業に移っている。
科白まで全く同じで、何がしたいのか本気で疑問。
その状態に何の疑問も抱かずに、進んでいるのもわけがわからない。
琥珀に言わせれば「それがお約束ってヤツだよ」で済む話なんだろうけれど、私は認めない。
戦闘状態になっているのに、相手の攻撃を待ってるだけなんて―――そういうターン制のゲームなら仕方ないかもしれないけれど。これはゲームではない。彼らにとっての、現実なのだから。
「もう、たくさん」
心の底からうんざりした声で呟き、静かに一歩を踏み出す。
そこが見える位置だったけれど、建物の影になっていて、今まで双方には気付かれなかった。
何か動きがあればと思って手を出さなかったけれどどうにも暫く終わりそうにはないし、何より、文句を言わないと気がすまないというか。
彼らからすれば緊張する場面、そこに横から暢気に歩いてくる姿は、どう見えたかはわからない。
ただ、互いに睨み合うのに夢中で全く気付いてない様子に思わず嘲笑したくなった。
横から攻撃されたらどうするつもりなんだろう、と。
「君、危ないから下がって!」
左側にいた白い服の男が叫び声を上げた。
私から見て一番近い位置にいたから、最初に視界の隅に入り込んだんだろう事はわかった。
けれど、それに従う義理も義務もない。
男の声に視線が集中するのを感じ―――というか、5人衆は見事に顔ごとこちらへ向けてるけれど。
「こんなお約束、必要ない」
ぽつりと呟いた私の声は、きっと届かなかった。
「危ないから!」
もう一度届いた声は別の男のモノだったが気にするでもなく、地を蹴った。
それが周囲にどう映るか、その結果は何となく予想は付いたけれども。
「ぐぇ」
小さなうめき声だけを残して、簡単に5人衆の一角は崩れ落ちた。
軽くとび蹴りしただけなのに一撃で沈むとは鈍いのか、肉弾戦に慣れていないのか、足元に伏した姿を見下ろしてため息を一つ。
「茶番は終了って事でいいかな?」
5人衆改め、4人衆へといい笑顔で問いかける。
情けないほど“ぽかーん”としか言い様のない顔を向けていたのだが、次いで、弾かれたようにその顔を驚愕したものへと変えた。
「おまっ!?」
「どもらなくても。それに、人を指差すのはいけないと思うけれど?」
「くそっ、コイツ…」
「全員でやるぞ!? いいか!!」
どうやらこの中でのリーダーは真ん中の非人間改め魔族さんのようだ。
「これでもくらえっ!」
リーダー魔族さんの声に合わせて残りの3人が躰ごとこちらへ向き直る。
それから4人衆は確認するようにして互いの顔を見やり、一つ頷き合ってから、両手を胸元で組んでぶつぶつと―――
「だから、それ、もういいから」
げんなりと呟く、5度目はいらない。
呆れ返った顔のまま3歩で間合いを詰めて、
「2人目」
腰を落とした体勢でその腹部目掛けて一発、一応の手加減をし―――――た、筈なんだけれども、哀れ勢い付いたまま後方へと吹っ飛んでいった。
どうにも加減が難しいらしい、この“力”とやらは。
苦笑する私の前で、自分達のすぐ側を仲間が飛んでいった4人衆改め3人衆は本気で茫然とした表情を浮かべている。
色々な意味で予想外だったんだろうけれど、それにしても―――
「詠唱中に攻撃? 何て真似をするんだ!!」
リーダー魔族さんから苦情を頂きました。
意味がわかりません。
「攻撃の態勢に入ってる状態で私が応戦してもそれは正当防衛。第一、殴って下さいと言わんばかりに隙だらけだったから、文句を言われる筋合いはない」
きっぱりと言い切る。
それが予想外だったのか、あからさまに動揺する3人衆。
何というか、凄く、私が悪者になったような気がするのはどうしてだろう。
「魔力による戦いというのは、己の持てる“力”を出し切り 「それって、始まる前から、人間よりあなた達の方が上だってわかりきってる事だよね? それなのに、試す必要ってあるわけ? 全然ないよね?」
場が沈黙した。
「それに第一、そっちが先に喧嘩を売ってるのに、相手の一撃が先にヒットしたからと言って文句を口にするのも可笑しい。だったら最初から手を出すなって話」
付け加えて、一歩を踏み出す。
それに合わせて後退する3人衆。
「相手の攻撃を待ってそれを受けてから自ターンとか、変身中やら呪文詠唱中とかは攻撃したらいけませんとか。そういう、特撮とかゲームみたいな“お約束”いらないから」
呆れ返った科白で告げながらも、ゆっくりと歩み寄る。
距離に変わりはない、同じように3人衆も後退しているから。
けれど、逃げ出そうとしない辺りはある意味で表彰できるかなと思っていた矢先、突然、リーダー魔族さんの目が大きく見開いた。
後退するのをやめてその場に踏み止まると、凝視するようにして私の顔を見つめる。
それに何となく嫌な予感がしたけれど、足は止めずに―――
「おまえ……加護者かと思ったが、その瞳…。―――お前が勇者か!?」
半ば茫然とした表情と声で、けれどもしっかりと、リーダー魔族さんは決して口にしてはならない科白を紡いでしまったのだった。
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どおおおん。
安堵の息を吐いた所で、ギャグとしか思えない音が聞こえた。
今度は何かと思いつつ頭を巡らし、
「有り得ない」
もう何度目になるかわからない科白を口にする。
視線の先には、高く高く天へと上る、火柱。
暫くして、それが消えて。
「本当、夢なら覚めて欲しい」
一人呟く。
けれどこれは哀しいくらい現実で。
どおおおん。
また同じ音がして、火柱が上がる。
それを眺めながらため息を一つ吐き出した。
「仕方ない」
大まかな方向しかわからないけれど、こことは違う方法―――多分に“魔法”とかいうものに部類する技なんだろうけれど。
火柱が上がっていた場所を目指し地を蹴った。
目的地はあっさりと見つかった。
定期的に上る火柱がいい目印になっていたから。とは言え、街の外れの方で、結構距離はあったけれど。
それよりも、問題は―――
「何がしたいのかわからない」
ため息混じりの正直な感想。
本気で茫然と立ち尽くした、何をやってるんだろう、と。
一定度の距離を保ち、街側と川側とに別れてる。
街側には、幾人かの人の姿。
そして、対する川側―――石造りの橋を背に立つ、非人間が5人。
「中々やるな!」
非人間5人衆の一人が声を上げる。
街を背に立つのは、3人。真っ白いコスプレ衣装に身を包み―――いや、その背後で怯えているふうの方々もそうなんだけれど。特にその3人は明らかにRPGに出てくるような、特殊な職業の服装。というかいわゆる神官服? 勿論、実際の神官が聞いたら怒りそうな気はするけれど。
「この程度で根を上げると思っているのか」
強気な発言だけれど、その姿は満身創痍という言葉がぴったりくる感じだし、表情には苦渋も見て取れる。
双方には何故か結構な距離が開いているから、互いの顔まで見えているかはわからないけれど。
「人間の魔力で魔族に叶うと思うな!」
非人間の1人が高らかに宣言し、5人衆が揃って何かをぶつぶつ言い始め、流石にそれは聞き取れなかったけれども、白い服の3人が何かに備えるようにして構え―――
「「「「「くらえっ!!」」」」」
見事なまでにハモった5人衆。
動作も綺麗に揃っていて、全員が同時に手のひらを前へと突き出し―――――炎が舞った。
「守りの壁!」
「「凪の風!」」
間髪入れずに白い服の3人が声を上げ、炎がその勢いを保ったまま進路を上空へと変えた。
同じように掌を突き出す姿は、向かい合う5人衆と等しい。
違うのは、3人は苦しそうっていうところ。
数秒の間をおいて炎が四散し―――
「中々やるな!」
―――以下、リピート。
補足しておくと、この光景が繰り返されるのは、私が此処へ着てから4度目。
正直な話、見飽きた。
額に手を当てて、重い息を大きく吐き出す。
そうしてる間にも、彼らは5度目の作業に移っている。
科白まで全く同じで、何がしたいのか本気で疑問。
その状態に何の疑問も抱かずに、進んでいるのもわけがわからない。
琥珀に言わせれば「それがお約束ってヤツだよ」で済む話なんだろうけれど、私は認めない。
戦闘状態になっているのに、相手の攻撃を待ってるだけなんて―――そういうターン制のゲームなら仕方ないかもしれないけれど。これはゲームではない。彼らにとっての、現実なのだから。
「もう、たくさん」
心の底からうんざりした声で呟き、静かに一歩を踏み出す。
そこが見える位置だったけれど、建物の影になっていて、今まで双方には気付かれなかった。
何か動きがあればと思って手を出さなかったけれどどうにも暫く終わりそうにはないし、何より、文句を言わないと気がすまないというか。
彼らからすれば緊張する場面、そこに横から暢気に歩いてくる姿は、どう見えたかはわからない。
ただ、互いに睨み合うのに夢中で全く気付いてない様子に思わず嘲笑したくなった。
横から攻撃されたらどうするつもりなんだろう、と。
「君、危ないから下がって!」
左側にいた白い服の男が叫び声を上げた。
私から見て一番近い位置にいたから、最初に視界の隅に入り込んだんだろう事はわかった。
けれど、それに従う義理も義務もない。
男の声に視線が集中するのを感じ―――というか、5人衆は見事に顔ごとこちらへ向けてるけれど。
「こんなお約束、必要ない」
ぽつりと呟いた私の声は、きっと届かなかった。
「危ないから!」
もう一度届いた声は別の男のモノだったが気にするでもなく、地を蹴った。
それが周囲にどう映るか、その結果は何となく予想は付いたけれども。
「ぐぇ」
小さなうめき声だけを残して、簡単に5人衆の一角は崩れ落ちた。
軽くとび蹴りしただけなのに一撃で沈むとは鈍いのか、肉弾戦に慣れていないのか、足元に伏した姿を見下ろしてため息を一つ。
「茶番は終了って事でいいかな?」
5人衆改め、4人衆へといい笑顔で問いかける。
情けないほど“ぽかーん”としか言い様のない顔を向けていたのだが、次いで、弾かれたようにその顔を驚愕したものへと変えた。
「おまっ!?」
「どもらなくても。それに、人を指差すのはいけないと思うけれど?」
「くそっ、コイツ…」
「全員でやるぞ!? いいか!!」
どうやらこの中でのリーダーは真ん中の非人間改め魔族さんのようだ。
「これでもくらえっ!」
リーダー魔族さんの声に合わせて残りの3人が躰ごとこちらへ向き直る。
それから4人衆は確認するようにして互いの顔を見やり、一つ頷き合ってから、両手を胸元で組んでぶつぶつと―――
「だから、それ、もういいから」
げんなりと呟く、5度目はいらない。
呆れ返った顔のまま3歩で間合いを詰めて、
「2人目」
腰を落とした体勢でその腹部目掛けて一発、一応の手加減をし―――――た、筈なんだけれども、哀れ勢い付いたまま後方へと吹っ飛んでいった。
どうにも加減が難しいらしい、この“力”とやらは。
苦笑する私の前で、自分達のすぐ側を仲間が飛んでいった4人衆改め3人衆は本気で茫然とした表情を浮かべている。
色々な意味で予想外だったんだろうけれど、それにしても―――
「詠唱中に攻撃? 何て真似をするんだ!!」
リーダー魔族さんから苦情を頂きました。
意味がわかりません。
「攻撃の態勢に入ってる状態で私が応戦してもそれは正当防衛。第一、殴って下さいと言わんばかりに隙だらけだったから、文句を言われる筋合いはない」
きっぱりと言い切る。
それが予想外だったのか、あからさまに動揺する3人衆。
何というか、凄く、私が悪者になったような気がするのはどうしてだろう。
「魔力による戦いというのは、己の持てる“力”を出し切り 「それって、始まる前から、人間よりあなた達の方が上だってわかりきってる事だよね? それなのに、試す必要ってあるわけ? 全然ないよね?」
場が沈黙した。
「それに第一、そっちが先に喧嘩を売ってるのに、相手の一撃が先にヒットしたからと言って文句を口にするのも可笑しい。だったら最初から手を出すなって話」
付け加えて、一歩を踏み出す。
それに合わせて後退する3人衆。
「相手の攻撃を待ってそれを受けてから自ターンとか、変身中やら呪文詠唱中とかは攻撃したらいけませんとか。そういう、特撮とかゲームみたいな“お約束”いらないから」
呆れ返った科白で告げながらも、ゆっくりと歩み寄る。
距離に変わりはない、同じように3人衆も後退しているから。
けれど、逃げ出そうとしない辺りはある意味で表彰できるかなと思っていた矢先、突然、リーダー魔族さんの目が大きく見開いた。
後退するのをやめてその場に踏み止まると、凝視するようにして私の顔を見つめる。
それに何となく嫌な予感がしたけれど、足は止めずに―――
「おまえ……加護者かと思ったが、その瞳…。―――お前が勇者か!?」
半ば茫然とした表情と声で、けれどもしっかりと、リーダー魔族さんは決して口にしてはならない科白を紡いでしまったのだった。
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