徒然なる、谺の戯言日記。
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「寝言」の引越しが無事に終了しました。
睡眠時間を削ったかいがありましたよ。
お陰で眠くて仕方ありません。
自業自得ですが。
でも1つわかった事があります。
よんよんを抱っこしながら作業するのは無理ですな。
全然集中できないし、二重の意味で危ない。。。
睡眠時間を削ったかいがありましたよ。
お陰で眠くて仕方ありません。
自業自得ですが。
でも1つわかった事があります。
よんよんを抱っこしながら作業するのは無理ですな。
全然集中できないし、二重の意味で危ない。。。
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20 謝れ!!
コホン、とガゼルが咳払いを1つ。
「それで、コハク。聞きたい事があるんだが」
「おお、尋問ってヤツだな。オレにわかる範囲ならどんと来い! ―――つーか何で捕まってんのかわかんないんだけどさ」
「………お前と一緒にいた女の事だが」
「琳ちゃん?」
「そういう名前なのか?」
「えーと…。名前は、琳子だけど」
「リンコ。―――輪なる淵より出でし者、か。なるほど、どうやら間違いないらしい」
「………何が?」
「お前は一緒にいたそうだが。その者は、ここで何をすると言っていた?」
「ここで? 琳ちゃんが?」
「そうだ」
「別に」
「は?」
「別に、何も。だって、いきなりこんなトコ出ちゃって右も左もわかんないし、これからどうしようって話をしてた。最初夢かと思ったし、でも夢じゃないっぽぃし」
「………それは、本当か?」
「うん。ああ、そういえば! オレ、琳ちゃん崖から突き落としちゃったんだよ、大丈夫かなっ!? 無事かな? オレ、どうしよう。琳ちゃんがいないと…っ!」
「その女なら、無事だろう。神聖レシル王国の宰相が直々に連れて返ったそうだからな」
「しんせいれしるおうこく?」
「そうだ」
「連れ帰ったって、誘拐!? え、琳ちゃんも攫われてんの!?」
「そうではないだろう。元々、お前達を呼んだのは、その宰相どもだ」
「………そうなの?」
「ああ」
「何で?」
何気なく問い掛けた琥珀のその科白に、それまで和らいでいた―――どちらかと言えば、和やかというよりは苦悩といった風だったが―――顔が、途端に険しくなった。
「―――我々をこの地から追い出そうとしているのだ」
ややあって、酷く重い口調でガゼルは答える。
「確かに、国ではないし、規模を見れば小さな集落に過ぎない。それでも、このエリシオール大陸のこの地に長く住んで来た者達ばかりだ。交流も友好なものだったというのに、今になって侵略しようなどと」
「侵略!?」
「そうだ。3柱の住む地の間近に、国に属すでもなく、他国に属すでもなく存在する地などあってはならぬと。ただし、まともに遣り合っても負けないまでも自国の力を削ぐ事をわかっていて、お前達を呼んだのだ」
「まさか! オレも琳ちゃんもそんな事しないよ!?」
「それは、お前が何も知らないから言える科白だ! あの宰相に連れて行かれた女は 「琳ちゃんは絶対しない!」
声を荒げたガゼルの声を遮るように、琥珀が怒気を孕んだ叫びを上げる。
「確かに、琳ちゃんは、やられたらやり返すけど。でも、理由もなく誰かを苦しめるような事はしないし、暴力で解決しようなんてしない。琳ちゃんは、誰とだって話をして分かり合おうとする。勿論、他人と完全に理解し合うなんて無理だけど、それでも、琳ちゃんは相手の言い分も聞かないでそんな事したりしない。絶対に」
「なら、奴等が、勝手な話をでっち上げたらどうだ?」
「え…?」
「我々が、人々に危害を加えていると。国を攻め滅ぼされるとでも言えば?」
「………それは。でも、実際そういう事しない限り琳ちゃんは動かないし、―――――もし、そう言われたって、きっと琳ちゃんなら、本当にそうなのか自分で確かめる筈だ」
「どうだろうな。口で言うのは簡単だ」
「絶対っての! オレ、命だってかけられるね、琳ちゃんの事なら」
強い核心の眼差しでガゼルを見やり、断言した。
「そうか。なら、その命、その女が攻めてきたら最初に落としてやる」
淡々とした声で返したガゼルの科白に、琥珀は一瞬だけ硬直してから、得意げな笑みを浮かべ、
「いーよ。ただし、琳ちゃんが攻める訳じゃなくて、話をしに来た場合、お前、謝れよな」
そんなすっとんきょうな科白を口にした。
ガゼルが一瞬呆けたのも仕方ないのかもしれない。
「………何? 何でオレがお前に謝る必要がある」
「オレにじゃねーよ!!」
「は?」
「琳ちゃんに! オレ、絶対怒られるから、お前も一緒に怒られろって言ってんだよ! あんな状況になって、琳ちゃん助けもしないで、しかも捕まって連れてかれちゃってんだよ? 絶対、琳ちゃん怒ってるに決まってんだから。だから謝るんだよ。本当はオレを連れて来たヤツが1番いいんだけど。お前、責任者なんだろ? だから当然じゃね?」
「何でそんな事でオレが頭を下げないといけないんだ。捕まった間抜けはお前だろうが」
「ぐっ…! それは、そうだけどっ」
「第一、来るかどうかもわからないような 「来る!!」
ぐっ、と琥珀は両の拳を力いっぱい握り締める。
「オレがここにいるってわかれば、絶対来る!」
「確かに、お前を助けに来るだろう。もとより、それが狙 「違っ! 全然違う!!」
何を当然、といった顔で告げるガゼルの科白を渾身の叫びで遮ってから、がっくりと項垂れ、
「オレを怒りに来るに決まってんじゃん。琳ちゃん、絶対怒ってるんだから」
弱々しく告げる声は、本気で弱りきっていた。
その様子に、ガゼルは当惑した、というよりは困惑したといった方が正しい顔をしてみせる。
「オレのが全面的に悪いだろうし、あの状況だと………。大体さ、そんな話に琳ちゃんが乗ると思う? こっちの都合だってあるとか何とか言って、今すぐ帰るとか言うだろうし。でも、オレがこっちにいるから帰るに帰れないだろうからさ。そうなると、やっぱりオレが怒られる訳で………」
ぶちぶち項垂れて呟く姿に、ガゼルは眉間に皺を寄せた。
これまでに得ていた情報と琥珀の語った話とを照らし合わせてみると、全く符合しない。
訝しく思いつつ、ガゼルは思考を打ち消すように頭を振った。
「とにかく、オレの用事はそれだけだ」
淡白に告げて、顔を上げた琥珀を一瞥し、肩越しに振り返る。
「部屋へ戻しておけ。下ではなく、上の奥だ」
「■■■■■■■■?」
「ああ。それと、キィを呼んでくれ」
「■■■■、■■■■■■?」
「ああ」
「■■■■■」
執事が答え、一礼し、扉の外へと出て行った。
それを見送って向き直ったガゼルは、自身を茫然と眺めている琥珀と眼が合う。
「やっぱ、あんたのはわかるけど、あっちのはわかんなかった」
ぽつり、と今更な感想を口にした。
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コホン、とガゼルが咳払いを1つ。
「それで、コハク。聞きたい事があるんだが」
「おお、尋問ってヤツだな。オレにわかる範囲ならどんと来い! ―――つーか何で捕まってんのかわかんないんだけどさ」
「………お前と一緒にいた女の事だが」
「琳ちゃん?」
「そういう名前なのか?」
「えーと…。名前は、琳子だけど」
「リンコ。―――輪なる淵より出でし者、か。なるほど、どうやら間違いないらしい」
「………何が?」
「お前は一緒にいたそうだが。その者は、ここで何をすると言っていた?」
「ここで? 琳ちゃんが?」
「そうだ」
「別に」
「は?」
「別に、何も。だって、いきなりこんなトコ出ちゃって右も左もわかんないし、これからどうしようって話をしてた。最初夢かと思ったし、でも夢じゃないっぽぃし」
「………それは、本当か?」
「うん。ああ、そういえば! オレ、琳ちゃん崖から突き落としちゃったんだよ、大丈夫かなっ!? 無事かな? オレ、どうしよう。琳ちゃんがいないと…っ!」
「その女なら、無事だろう。神聖レシル王国の宰相が直々に連れて返ったそうだからな」
「しんせいれしるおうこく?」
「そうだ」
「連れ帰ったって、誘拐!? え、琳ちゃんも攫われてんの!?」
「そうではないだろう。元々、お前達を呼んだのは、その宰相どもだ」
「………そうなの?」
「ああ」
「何で?」
何気なく問い掛けた琥珀のその科白に、それまで和らいでいた―――どちらかと言えば、和やかというよりは苦悩といった風だったが―――顔が、途端に険しくなった。
「―――我々をこの地から追い出そうとしているのだ」
ややあって、酷く重い口調でガゼルは答える。
「確かに、国ではないし、規模を見れば小さな集落に過ぎない。それでも、このエリシオール大陸のこの地に長く住んで来た者達ばかりだ。交流も友好なものだったというのに、今になって侵略しようなどと」
「侵略!?」
「そうだ。3柱の住む地の間近に、国に属すでもなく、他国に属すでもなく存在する地などあってはならぬと。ただし、まともに遣り合っても負けないまでも自国の力を削ぐ事をわかっていて、お前達を呼んだのだ」
「まさか! オレも琳ちゃんもそんな事しないよ!?」
「それは、お前が何も知らないから言える科白だ! あの宰相に連れて行かれた女は 「琳ちゃんは絶対しない!」
声を荒げたガゼルの声を遮るように、琥珀が怒気を孕んだ叫びを上げる。
「確かに、琳ちゃんは、やられたらやり返すけど。でも、理由もなく誰かを苦しめるような事はしないし、暴力で解決しようなんてしない。琳ちゃんは、誰とだって話をして分かり合おうとする。勿論、他人と完全に理解し合うなんて無理だけど、それでも、琳ちゃんは相手の言い分も聞かないでそんな事したりしない。絶対に」
「なら、奴等が、勝手な話をでっち上げたらどうだ?」
「え…?」
「我々が、人々に危害を加えていると。国を攻め滅ぼされるとでも言えば?」
「………それは。でも、実際そういう事しない限り琳ちゃんは動かないし、―――――もし、そう言われたって、きっと琳ちゃんなら、本当にそうなのか自分で確かめる筈だ」
「どうだろうな。口で言うのは簡単だ」
「絶対っての! オレ、命だってかけられるね、琳ちゃんの事なら」
強い核心の眼差しでガゼルを見やり、断言した。
「そうか。なら、その命、その女が攻めてきたら最初に落としてやる」
淡々とした声で返したガゼルの科白に、琥珀は一瞬だけ硬直してから、得意げな笑みを浮かべ、
「いーよ。ただし、琳ちゃんが攻める訳じゃなくて、話をしに来た場合、お前、謝れよな」
そんなすっとんきょうな科白を口にした。
ガゼルが一瞬呆けたのも仕方ないのかもしれない。
「………何? 何でオレがお前に謝る必要がある」
「オレにじゃねーよ!!」
「は?」
「琳ちゃんに! オレ、絶対怒られるから、お前も一緒に怒られろって言ってんだよ! あんな状況になって、琳ちゃん助けもしないで、しかも捕まって連れてかれちゃってんだよ? 絶対、琳ちゃん怒ってるに決まってんだから。だから謝るんだよ。本当はオレを連れて来たヤツが1番いいんだけど。お前、責任者なんだろ? だから当然じゃね?」
「何でそんな事でオレが頭を下げないといけないんだ。捕まった間抜けはお前だろうが」
「ぐっ…! それは、そうだけどっ」
「第一、来るかどうかもわからないような 「来る!!」
ぐっ、と琥珀は両の拳を力いっぱい握り締める。
「オレがここにいるってわかれば、絶対来る!」
「確かに、お前を助けに来るだろう。もとより、それが狙 「違っ! 全然違う!!」
何を当然、といった顔で告げるガゼルの科白を渾身の叫びで遮ってから、がっくりと項垂れ、
「オレを怒りに来るに決まってんじゃん。琳ちゃん、絶対怒ってるんだから」
弱々しく告げる声は、本気で弱りきっていた。
その様子に、ガゼルは当惑した、というよりは困惑したといった方が正しい顔をしてみせる。
「オレのが全面的に悪いだろうし、あの状況だと………。大体さ、そんな話に琳ちゃんが乗ると思う? こっちの都合だってあるとか何とか言って、今すぐ帰るとか言うだろうし。でも、オレがこっちにいるから帰るに帰れないだろうからさ。そうなると、やっぱりオレが怒られる訳で………」
ぶちぶち項垂れて呟く姿に、ガゼルは眉間に皺を寄せた。
これまでに得ていた情報と琥珀の語った話とを照らし合わせてみると、全く符合しない。
訝しく思いつつ、ガゼルは思考を打ち消すように頭を振った。
「とにかく、オレの用事はそれだけだ」
淡白に告げて、顔を上げた琥珀を一瞥し、肩越しに振り返る。
「部屋へ戻しておけ。下ではなく、上の奥だ」
「■■■■■■■■?」
「ああ。それと、キィを呼んでくれ」
「■■■■、■■■■■■?」
「ああ」
「■■■■■」
執事が答え、一礼し、扉の外へと出て行った。
それを見送って向き直ったガゼルは、自身を茫然と眺めている琥珀と眼が合う。
「やっぱ、あんたのはわかるけど、あっちのはわかんなかった」
ぽつり、と今更な感想を口にした。
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19 黒の加護
どういう状況なんだろう、と琥珀は何度目かの自問自答をしてみる。
あの狭い上に薄暗くて退屈だった牢屋から出され、菓子パン――のようなもの――を差し出されたので素直に受け取りそれを食べながら、引っ立てられた。
言葉は通じないが何かしら食べ物を与えていれば大人しくしている、という認識をもたれていたがための結果なのだが、それで本当に大人しく従っているのも何である。
手持ちの菓子パンがなくなると、次が渡された。
餌付けされているように思えなくもない。
で。
彼は今、まるで書斎のような部屋の真ん中に立たされている。
目の前数メートル先には、黒光りするやたら豪奢な机がででんと鎮座ましましている。が、そこには誰も座っていない。
連行して来た2人とは廊下で別れ、琥珀は1人この部屋へと通されていた。
無論、中には先客がいたが。
引き渡される形だったのだろう、何か文言のやりとりはあったが、当然のように琥珀には理解出来なかった。
中にいた者から、そこに立つよう身振りで示されて、現在に繋がる。
違う点といえば、手元の菓子パンが尽きたため、手持ち無沙汰で周りを眺めつつ思考しているという事だ。
部屋にいたもう1人は、ドアの近くでやはり佇んでいる。
肩越しに振り返ると、物凄い冷めためでジロリと睨まれた。
その姿は、まるで執事さながらだった。黒一色で決めたスーツのような服装で、そこだけをとっても他の者とは服装が若干違う。髪は短くオールバックにまとめられ、白髪にも見える銀髪。目は切れ長の深い紫色をしていた。肌の色は青白いが、不健康そうには見えない。
人間に見えなくもない外見。
その耳が若干長く、尖っている事を除けば。
琥珀から見ると言葉が通じそうな気がする、ここで目にした唯一の存在なのだが、部屋に入る際になされていた会話で無理だろうと判断していた。
そもそも、言葉が通じるなら身振りで示す必要などなかったのだから。
(………ひ、暇だ…)
内心、力なく呻く。
琥珀の1番嫌いな事、それが大人しくじっとしているというのもだった。
落ち着きがないと言われればそれまでだが、そうしていると、そのまま動けなくなりそうで恐怖を感じるという、琥珀的にきちんとした理由があった。
無論、そんな訳ないのだが。
と。
扉が2回、ノックされた。
思わず肩越しに振り返った琥珀は、また睨まれて、慌てて正面へと向き直る。
(………あ、あの人苦手だ…っ)
無表情で無言で睨まれるくらいなら怒鳴られた方がマシな人種である。
ガクブルと意味もなく恐怖を感じる琥珀の背後で、動く気配がして、扉の開く音がし、静かに閉じられる。
かすかな衣擦れの音を立てて、すぐ背後に誰かが近付いたのがわかった。
ヒクリと頬を引き攣らせ、振り返りたい衝動と戦う。
身の危険といったものは感じないが、代わりに品定めされているような視線を背に感じる。
物凄い気持ち悪い。
嫌な気分になりつつ、必死に堪え―――
(何かムカ付いてきたっ!)
きれる訳もなく、琥珀は振り返った。
本気で、躰ごと。肩越しなんてケチな真似はしないで向き直る。
睨んでやる、怒鳴ってやる、と意気込んで振り返ったものの、30センチほどの距離を置いて立っていた姿に、怒り心頭だった琥珀の顔から全部の力が抜けた。
間抜け顔で、相手をぽかんと見上げる。
「………目が三つ」
暫くして口を付いたのは、そんな科白で、それに続くように琥珀の顔が嬉々としたものに変わった。
対して、対峙していた者は軽く眉を顰めたのだが。
そこにいたのは、琥珀より若干背丈の低い男だった。浅黒い肌、短い黒髪、白金の眼、少し耳が尖っているだけの人に良く似た姿だった。琥珀の言ったように、額に縦長の黒い眼さえなければ。身に付けている服はいかにもファンタジーチックだが。
「額に第3の目っ、心の眼か? 悟り開いてんの? それとも邪眼? うわ、カッコイーっ!!」
水を得た魚のように叫んだ琥珀に、相手の顔が更に怪訝そうなものへと変わる。
「………どういう事だ? 言葉は通じないと聞いたが」
肩越しに振り返って、そんな科白を口にした。
対して、変わらず扉の前に控えていた執事が幾分表情を険しくし、何やら答える。
それは琥珀にはわからない、わからないが―――
「そうか、これも加護の影響か」
そう思案顔で頷いた者の言葉は、紛れもなく日本語に聞こえた。
「あんた、オレの言葉わかんの? ってか、あんたのしゃべってるのオレわかるよーっ!!」
「いちいち叫ばなくても聞こえる。普通に話せ」
「うおぉ、マジで会話出来てるっ!? 3日、3日ぶりに普通に会話してるよぉお」
「………話を聞け」
げんなりとした科白も気にせず、琥珀は歓喜の余り涙ぐんでいた。
「だ、誰も通じなくって、オレ暇で暇で……。いや、飯は美味いからそこはいいんだけど、でもやっぱり…」
うう、と嗚咽を漏らす。
「………何なんだコイツは」
心底嬉しそうに涙する姿に、溜息にも似た呟き口にしてから、気を取り直すように琥珀を見据える。
「手間が省けたから由とするか。オレの名は、ガゼル=エレイオラと言う。お前は?」
その科白に琥珀はぱっと顔を上げ、嬉しそうに男――ガゼルを見つめ、
「な、名乗られた。名乗ってくれたっ! しかも名前聞かれてるオレ!! 未知との遭遇キターっ!!」
妙な所で歓喜の叫びを上げ、それから大きく深呼吸。
向かい合うガゼルは若干引き気味だ。
「琥珀。斎賀琥珀ってーの」
「サイガコハク? 変わった名前だな」
「あ、いや。琥珀が名前で、斎賀が苗字」
「………コハク=サイガか。なるほど、家名持ちか」
「あ、うん、そう。おお、ますますRPGっぽぃな。それに言葉通じるヤツがいて本当よかったっ! って、あれ? あんた、ええと、ガゼルって言ったっけ? さっき、そのまんまでアイツともしゃべってたよな?」
「ああ」
「同じ言葉使ってる、んだよな?」
「ああ」
「何で通じんの?」
「3柱を体現する、黒の加護の影響だろう」
「黒の加護? つか、3柱って?」
「この世界の創造神だ。体現した姿が、外見に黒を持つ。ゆえに、黒の加護だ。3柱の加護を強く受ける者は、その身の色に黒を宿しているため、加護持ちと呼ばれる。お前は髪はともかく、目は黒いからな。お前も加護持ちだ」
「………あんたも黒い髪だな。あんたも、その、黒の加護?」
「オレのは、魔王の証だ」
「ま」
最初の一言だけを発して、琥珀が硬直した。
「魔族の王という意味ではない。3柱から与えられた、目印のようなものだ。この額の眼と髪の色がその証」
「………ま、魔王なのに魔族の王じゃないのかよっ!?」
「そうだ」
あっさりと肯定した科白に、琥珀は打ちひしがれた顔になった。
「ええ、じゃ、王というからにはエライ人なのに、えらくない?」
「このあたりの責任者ではある。ただ、他の地に住む魔族の同行など知らんし、知ろうとも思わない。魔王というのはただ、世界に必要な歯車の1つに過ぎない。存在の在り方は違うが、精霊王と似たようなものだ」
「せ、精霊王なんてのまでいるのか!?」
「厳密に、いる、という訳ではないが」
「う、ううん? 何か難しくなってきたな…」
「余所から来たお前に、この世界の仕組みをこの場で話に聞いて理解するのは無理だろうし、詳しく話してやる気もない」
「ええっ!? そんな、折角の未知との遭遇なのに、教えてくれたって…っ!」
「そんな時間もないだろう。恐らくな」
「ええっ!? オレもっとしゃべりたいっ!」
「………そういう意味じゃない。会話が出来るという点に関しては、恐らく、加護持ちなら他の者でも会話は出来るだろう。後で話し相手を作ってやるからとりあえず、叫ぶな」
「………わかった。いや、よくわかんねーけど…―――――ま、よろしく!」
「よろしく?」
「ああ」
「自分の立場が理解出来てないのか? まぁ、言葉が通じなかったのであれば仕方ないだろうが…」
「あー…えっと、オレ、捕まってんだよね? 牢屋っぽいってか、アレ牢屋だろうけど。でも食べ物美味いから、暇な点と言葉が通じないのを除けば、まぁ、不自由ないからな~」
「………わかっていてそれなのか」
「何が?」
きょとん、として問い返す姿に、ガゼルは思わず頭を抱えたくなった。
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どういう状況なんだろう、と琥珀は何度目かの自問自答をしてみる。
あの狭い上に薄暗くて退屈だった牢屋から出され、菓子パン――のようなもの――を差し出されたので素直に受け取りそれを食べながら、引っ立てられた。
言葉は通じないが何かしら食べ物を与えていれば大人しくしている、という認識をもたれていたがための結果なのだが、それで本当に大人しく従っているのも何である。
手持ちの菓子パンがなくなると、次が渡された。
餌付けされているように思えなくもない。
で。
彼は今、まるで書斎のような部屋の真ん中に立たされている。
目の前数メートル先には、黒光りするやたら豪奢な机がででんと鎮座ましましている。が、そこには誰も座っていない。
連行して来た2人とは廊下で別れ、琥珀は1人この部屋へと通されていた。
無論、中には先客がいたが。
引き渡される形だったのだろう、何か文言のやりとりはあったが、当然のように琥珀には理解出来なかった。
中にいた者から、そこに立つよう身振りで示されて、現在に繋がる。
違う点といえば、手元の菓子パンが尽きたため、手持ち無沙汰で周りを眺めつつ思考しているという事だ。
部屋にいたもう1人は、ドアの近くでやはり佇んでいる。
肩越しに振り返ると、物凄い冷めためでジロリと睨まれた。
その姿は、まるで執事さながらだった。黒一色で決めたスーツのような服装で、そこだけをとっても他の者とは服装が若干違う。髪は短くオールバックにまとめられ、白髪にも見える銀髪。目は切れ長の深い紫色をしていた。肌の色は青白いが、不健康そうには見えない。
人間に見えなくもない外見。
その耳が若干長く、尖っている事を除けば。
琥珀から見ると言葉が通じそうな気がする、ここで目にした唯一の存在なのだが、部屋に入る際になされていた会話で無理だろうと判断していた。
そもそも、言葉が通じるなら身振りで示す必要などなかったのだから。
(………ひ、暇だ…)
内心、力なく呻く。
琥珀の1番嫌いな事、それが大人しくじっとしているというのもだった。
落ち着きがないと言われればそれまでだが、そうしていると、そのまま動けなくなりそうで恐怖を感じるという、琥珀的にきちんとした理由があった。
無論、そんな訳ないのだが。
と。
扉が2回、ノックされた。
思わず肩越しに振り返った琥珀は、また睨まれて、慌てて正面へと向き直る。
(………あ、あの人苦手だ…っ)
無表情で無言で睨まれるくらいなら怒鳴られた方がマシな人種である。
ガクブルと意味もなく恐怖を感じる琥珀の背後で、動く気配がして、扉の開く音がし、静かに閉じられる。
かすかな衣擦れの音を立てて、すぐ背後に誰かが近付いたのがわかった。
ヒクリと頬を引き攣らせ、振り返りたい衝動と戦う。
身の危険といったものは感じないが、代わりに品定めされているような視線を背に感じる。
物凄い気持ち悪い。
嫌な気分になりつつ、必死に堪え―――
(何かムカ付いてきたっ!)
きれる訳もなく、琥珀は振り返った。
本気で、躰ごと。肩越しなんてケチな真似はしないで向き直る。
睨んでやる、怒鳴ってやる、と意気込んで振り返ったものの、30センチほどの距離を置いて立っていた姿に、怒り心頭だった琥珀の顔から全部の力が抜けた。
間抜け顔で、相手をぽかんと見上げる。
「………目が三つ」
暫くして口を付いたのは、そんな科白で、それに続くように琥珀の顔が嬉々としたものに変わった。
対して、対峙していた者は軽く眉を顰めたのだが。
そこにいたのは、琥珀より若干背丈の低い男だった。浅黒い肌、短い黒髪、白金の眼、少し耳が尖っているだけの人に良く似た姿だった。琥珀の言ったように、額に縦長の黒い眼さえなければ。身に付けている服はいかにもファンタジーチックだが。
「額に第3の目っ、心の眼か? 悟り開いてんの? それとも邪眼? うわ、カッコイーっ!!」
水を得た魚のように叫んだ琥珀に、相手の顔が更に怪訝そうなものへと変わる。
「………どういう事だ? 言葉は通じないと聞いたが」
肩越しに振り返って、そんな科白を口にした。
対して、変わらず扉の前に控えていた執事が幾分表情を険しくし、何やら答える。
それは琥珀にはわからない、わからないが―――
「そうか、これも加護の影響か」
そう思案顔で頷いた者の言葉は、紛れもなく日本語に聞こえた。
「あんた、オレの言葉わかんの? ってか、あんたのしゃべってるのオレわかるよーっ!!」
「いちいち叫ばなくても聞こえる。普通に話せ」
「うおぉ、マジで会話出来てるっ!? 3日、3日ぶりに普通に会話してるよぉお」
「………話を聞け」
げんなりとした科白も気にせず、琥珀は歓喜の余り涙ぐんでいた。
「だ、誰も通じなくって、オレ暇で暇で……。いや、飯は美味いからそこはいいんだけど、でもやっぱり…」
うう、と嗚咽を漏らす。
「………何なんだコイツは」
心底嬉しそうに涙する姿に、溜息にも似た呟き口にしてから、気を取り直すように琥珀を見据える。
「手間が省けたから由とするか。オレの名は、ガゼル=エレイオラと言う。お前は?」
その科白に琥珀はぱっと顔を上げ、嬉しそうに男――ガゼルを見つめ、
「な、名乗られた。名乗ってくれたっ! しかも名前聞かれてるオレ!! 未知との遭遇キターっ!!」
妙な所で歓喜の叫びを上げ、それから大きく深呼吸。
向かい合うガゼルは若干引き気味だ。
「琥珀。斎賀琥珀ってーの」
「サイガコハク? 変わった名前だな」
「あ、いや。琥珀が名前で、斎賀が苗字」
「………コハク=サイガか。なるほど、家名持ちか」
「あ、うん、そう。おお、ますますRPGっぽぃな。それに言葉通じるヤツがいて本当よかったっ! って、あれ? あんた、ええと、ガゼルって言ったっけ? さっき、そのまんまでアイツともしゃべってたよな?」
「ああ」
「同じ言葉使ってる、んだよな?」
「ああ」
「何で通じんの?」
「3柱を体現する、黒の加護の影響だろう」
「黒の加護? つか、3柱って?」
「この世界の創造神だ。体現した姿が、外見に黒を持つ。ゆえに、黒の加護だ。3柱の加護を強く受ける者は、その身の色に黒を宿しているため、加護持ちと呼ばれる。お前は髪はともかく、目は黒いからな。お前も加護持ちだ」
「………あんたも黒い髪だな。あんたも、その、黒の加護?」
「オレのは、魔王の証だ」
「ま」
最初の一言だけを発して、琥珀が硬直した。
「魔族の王という意味ではない。3柱から与えられた、目印のようなものだ。この額の眼と髪の色がその証」
「………ま、魔王なのに魔族の王じゃないのかよっ!?」
「そうだ」
あっさりと肯定した科白に、琥珀は打ちひしがれた顔になった。
「ええ、じゃ、王というからにはエライ人なのに、えらくない?」
「このあたりの責任者ではある。ただ、他の地に住む魔族の同行など知らんし、知ろうとも思わない。魔王というのはただ、世界に必要な歯車の1つに過ぎない。存在の在り方は違うが、精霊王と似たようなものだ」
「せ、精霊王なんてのまでいるのか!?」
「厳密に、いる、という訳ではないが」
「う、ううん? 何か難しくなってきたな…」
「余所から来たお前に、この世界の仕組みをこの場で話に聞いて理解するのは無理だろうし、詳しく話してやる気もない」
「ええっ!? そんな、折角の未知との遭遇なのに、教えてくれたって…っ!」
「そんな時間もないだろう。恐らくな」
「ええっ!? オレもっとしゃべりたいっ!」
「………そういう意味じゃない。会話が出来るという点に関しては、恐らく、加護持ちなら他の者でも会話は出来るだろう。後で話し相手を作ってやるからとりあえず、叫ぶな」
「………わかった。いや、よくわかんねーけど…―――――ま、よろしく!」
「よろしく?」
「ああ」
「自分の立場が理解出来てないのか? まぁ、言葉が通じなかったのであれば仕方ないだろうが…」
「あー…えっと、オレ、捕まってんだよね? 牢屋っぽいってか、アレ牢屋だろうけど。でも食べ物美味いから、暇な点と言葉が通じないのを除けば、まぁ、不自由ないからな~」
「………わかっていてそれなのか」
「何が?」
きょとん、として問い返す姿に、ガゼルは思わず頭を抱えたくなった。
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18 現実逃避
どしゃっ、と降ろさ―――落とされて、琥珀は我に返った。
扉が閉じられる音を小さく主張するのを背後に、琥珀は目で周囲を見回した。
廊下だった。
「………どこ?」
思わず呟いてみたら、声が出た。
聞いてみようと顔を上げた瞬間、喉元に刃が当てられて、思わず硬直する。
顔にでっかい目が1つしかない、茶褐色の筋肉ムキムキのスキンヘッドの親父―――琥珀的直感により―――に、睨まれた。
(目、目がいっこしかないっ…)
喉元に当てられた刃の事などすっかり忘れて、その姿を感動の眼差しで眺めた。真性である。
返った反応が怯えたモノではなく、期待に満ちたように輝いた目と表情だったため、一つ目の彼は、若干引いた。
「■■、■■■■■■■■」
「え? 何? 今、何て言っ…」
「■■■■■!」
一つ目の彼の言葉は、琥珀にはさっぱりわからなかった。
ぐい、と襟を引っ張られて無理矢理立たされる。
ぱちくりと目を瞬く琥珀に緊張感という文字は全くなく、その顔は拗ねた子供そのものだった。
「何言ってんだかわかんねーし」
ぼそっと呟いた瞬間、壁に押し付けられる。
「■■■■■■■■!」
上から一つ目で睨むように見下ろされ、琥珀は叫びそうになった言葉を飲み込んだ。
首元にやはり刃が添えられて、大人しくしてないと痛い目に合うという事をやっと理解した。
(こういうのって、言葉って通じるのがお約束なんじゃねーのっ!?)
負けじと睨むようにしながら、口には出さずに内心で叫んだ。
数秒、睨み合ってから、はぁ、と琥珀は息を吐き出す。
(………どこだろー、ここ)
やっと自分の置かれている状況に疑問を抱いた琥珀は、壁に押し付けられたままで視線だけを周囲に走らせる。
何かの建物の内部というのはわかる。
ゴテゴテしい飾りなどなく、どちらかと言うと質素な、けれど、それが洋風の建物である事はわかった。割合広い廊下、高い天井、板張りの造り。
左右に視線を走らせれば、長く伸びる廊下がやはり目に入る。
そして、すぐ左手にある扉。
ごくごく普通の、若干寂れた年代ものの洋館。それが琥珀視点での、感想だ。
そうしてから、何でここにいるんだろうと首を捻るようにして思考を巡らした所で、左手にある扉が開かれた。
「■■■■、■■■■■。■■■■■」
部屋から出て来たのは見覚えのある姿、―――――ああ、ドラゴンに乗ってたヤツだ、と気付き、捕まったんだと今更気付く。
保護されたとは流石に思わなかった。
刃を喉元に当てられたままだし、見覚えのある背中に羽根を生やしたヤツは気難しい顔で琥珀を睨んでいる。
「■■■、■■■■■■■■■」
「■■■■、■■■■。■■■■■■■」
そうして、2人はさっぱりわからない言葉を交わしている。
その様を眺めながら、琥珀は本気で泣きそうになった。
心細いとか、危険を感じてとか、そういう理由ではなく、この未知との遭遇という素敵なシュチエーションにも関わらず、さっぱり言葉が通じないという事実が、意思の疎通すら出来ないというのが、果てしなく哀しかったからだ。
せっかくだから、色々聞きたいのに。思わずそう独り言ちてから、思い切りな溜息を吐き出す。
と。
ぐいっ、と再び引っ張られて、琥珀の思考が2人へと戻される。
顔を上げた琥珀が誘拐犯と目を合わせると、何かを告げられた。勿論、何て言われたか琥珀にはわかりようもなく。
ひらひらと誘拐犯が手を振ったのを合図として、襟をつかまれたまま引っ立てられるようにその場から動くよう促される。
一つ目のスキンヘッドの親父に連行されるように、琥珀は大人しく歩いた。
「あのさ、別に引っ張んなくても歩くよ~?」
「■■■」
やっぱり何言ってんだかわかんない。軽く頭を振ってから琥珀は項垂れた。
相手としても琥珀の言ってる事は理解出来ないのだろう、その証拠に襟は捕まれたままだ。
そのまま廊下の突き当たりを左に曲がり、また歩いて、左に曲がって、階段を降りるよう促される。
がっくりと肩を落としたままそこを降りて。折り返して降りて。また折り返して降りて。
そうした先には、薄暗い、石造りの床の終点があった。
(あー…何か、ここ、地下牢っぽぃなぁ。ゲームとかによくある………)
内心そう呟いて、歩くよう背中を押されて、ちらりと左右を見れば、鉄格子っぽいのがあったりして。
ここらヘンはお約束だなぁ、なんて思っていたら、一つ目の大男―――髪があるし、琥珀視点でスキンヘッドより年は若い気がする―――が立ってる姿が目に入る。
所謂、その場所の突き当たりに位置する場所なのだが。
そこで、背後に立っていたスキンヘッドの親父が、鉄格子の前に立ってた同じ一つ目を会話をし―――
「■■■■■■■■■」
背後からドスの聞いた低い声で何かを言われ、目の前の大男に腕を捕まれたと思った瞬間、引っ張られて牢にぶちこまれた。
危うく顔面から落下するところを何とか受身だけは取って、床が石だから背中とか腕とか痛かったがそれを我慢して文句を口にしようとした瞬間。
がしゃん。
激しく無情な音がして、目をやれば、空いていたはずの鉄格子はしっかりと閉じられて。
その向こうに並び立つ一つ目の親父と大男。
「って、ええええっ!? ちょっと待っ…いきなり!? っていうかお約束だけど、何か違う!! オレはこういうお約束は嫌だーっ!!!!」
絶叫してみるが、その姿を一つ目の2人は一瞥くれただけで踵を返し去って行った。
思わず後を追うように、勢いよく立ち上がって鉄格子に突進すると、そこを掴んで両手に力を込める。
うんともすんとも言わなかった。
格子の継ぎ目がブレる音も、擦れる音も、何もない。
「えええ!? ちょっと待って! 何もナシ!? ていうかこういう時ってさ! もっとこう、何かあるだろーっ!!!!」
去り行く背中が振り返る事はなく。
そのまま2つの背中は階段を上っていった。
「おぉおおーぃっ!! 置いてかないでーっ!!」
声は空しく響き渡り。
返る言葉も声もなく。
琥珀は独り、薄暗い地下牢に取り残される。
その後、声の続く限り叫んでみたが、無駄な努力だと琥珀が理解したのは、いい感じに声が掠れてからだった。
そうしてから改めて肩を落として格子から離れると、奥の壁際―――前方の廊下が見えるような位置―――に腰を降ろして背を預ける。
「喉、痛い」
ぽつりと呟いてから、ごちっと背後の石壁に頭をつけて、双眸を伏せた。
さて、これからどうしよう。
内心そう呟いた瞬間、背筋に物凄い悪寒が走った。
慌てて左右を見回し、それから安堵の息を吐き出す。
「………琳ちゃん、怒ってるな」
悟りきった声を出してから、でも不可抗力だから、と呟いた。
それから琥珀は体育座りになると膝に顔を埋めて、疲れたなぁと呻くように口にする。
暫くそうしているうちに、自然と意識は薄れて行った。
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どしゃっ、と降ろさ―――落とされて、琥珀は我に返った。
扉が閉じられる音を小さく主張するのを背後に、琥珀は目で周囲を見回した。
廊下だった。
「………どこ?」
思わず呟いてみたら、声が出た。
聞いてみようと顔を上げた瞬間、喉元に刃が当てられて、思わず硬直する。
顔にでっかい目が1つしかない、茶褐色の筋肉ムキムキのスキンヘッドの親父―――琥珀的直感により―――に、睨まれた。
(目、目がいっこしかないっ…)
喉元に当てられた刃の事などすっかり忘れて、その姿を感動の眼差しで眺めた。真性である。
返った反応が怯えたモノではなく、期待に満ちたように輝いた目と表情だったため、一つ目の彼は、若干引いた。
「■■、■■■■■■■■」
「え? 何? 今、何て言っ…」
「■■■■■!」
一つ目の彼の言葉は、琥珀にはさっぱりわからなかった。
ぐい、と襟を引っ張られて無理矢理立たされる。
ぱちくりと目を瞬く琥珀に緊張感という文字は全くなく、その顔は拗ねた子供そのものだった。
「何言ってんだかわかんねーし」
ぼそっと呟いた瞬間、壁に押し付けられる。
「■■■■■■■■!」
上から一つ目で睨むように見下ろされ、琥珀は叫びそうになった言葉を飲み込んだ。
首元にやはり刃が添えられて、大人しくしてないと痛い目に合うという事をやっと理解した。
(こういうのって、言葉って通じるのがお約束なんじゃねーのっ!?)
負けじと睨むようにしながら、口には出さずに内心で叫んだ。
数秒、睨み合ってから、はぁ、と琥珀は息を吐き出す。
(………どこだろー、ここ)
やっと自分の置かれている状況に疑問を抱いた琥珀は、壁に押し付けられたままで視線だけを周囲に走らせる。
何かの建物の内部というのはわかる。
ゴテゴテしい飾りなどなく、どちらかと言うと質素な、けれど、それが洋風の建物である事はわかった。割合広い廊下、高い天井、板張りの造り。
左右に視線を走らせれば、長く伸びる廊下がやはり目に入る。
そして、すぐ左手にある扉。
ごくごく普通の、若干寂れた年代ものの洋館。それが琥珀視点での、感想だ。
そうしてから、何でここにいるんだろうと首を捻るようにして思考を巡らした所で、左手にある扉が開かれた。
「■■■■、■■■■■。■■■■■」
部屋から出て来たのは見覚えのある姿、―――――ああ、ドラゴンに乗ってたヤツだ、と気付き、捕まったんだと今更気付く。
保護されたとは流石に思わなかった。
刃を喉元に当てられたままだし、見覚えのある背中に羽根を生やしたヤツは気難しい顔で琥珀を睨んでいる。
「■■■、■■■■■■■■■」
「■■■■、■■■■。■■■■■■■」
そうして、2人はさっぱりわからない言葉を交わしている。
その様を眺めながら、琥珀は本気で泣きそうになった。
心細いとか、危険を感じてとか、そういう理由ではなく、この未知との遭遇という素敵なシュチエーションにも関わらず、さっぱり言葉が通じないという事実が、意思の疎通すら出来ないというのが、果てしなく哀しかったからだ。
せっかくだから、色々聞きたいのに。思わずそう独り言ちてから、思い切りな溜息を吐き出す。
と。
ぐいっ、と再び引っ張られて、琥珀の思考が2人へと戻される。
顔を上げた琥珀が誘拐犯と目を合わせると、何かを告げられた。勿論、何て言われたか琥珀にはわかりようもなく。
ひらひらと誘拐犯が手を振ったのを合図として、襟をつかまれたまま引っ立てられるようにその場から動くよう促される。
一つ目のスキンヘッドの親父に連行されるように、琥珀は大人しく歩いた。
「あのさ、別に引っ張んなくても歩くよ~?」
「■■■」
やっぱり何言ってんだかわかんない。軽く頭を振ってから琥珀は項垂れた。
相手としても琥珀の言ってる事は理解出来ないのだろう、その証拠に襟は捕まれたままだ。
そのまま廊下の突き当たりを左に曲がり、また歩いて、左に曲がって、階段を降りるよう促される。
がっくりと肩を落としたままそこを降りて。折り返して降りて。また折り返して降りて。
そうした先には、薄暗い、石造りの床の終点があった。
(あー…何か、ここ、地下牢っぽぃなぁ。ゲームとかによくある………)
内心そう呟いて、歩くよう背中を押されて、ちらりと左右を見れば、鉄格子っぽいのがあったりして。
ここらヘンはお約束だなぁ、なんて思っていたら、一つ目の大男―――髪があるし、琥珀視点でスキンヘッドより年は若い気がする―――が立ってる姿が目に入る。
所謂、その場所の突き当たりに位置する場所なのだが。
そこで、背後に立っていたスキンヘッドの親父が、鉄格子の前に立ってた同じ一つ目を会話をし―――
「■■■■■■■■■」
背後からドスの聞いた低い声で何かを言われ、目の前の大男に腕を捕まれたと思った瞬間、引っ張られて牢にぶちこまれた。
危うく顔面から落下するところを何とか受身だけは取って、床が石だから背中とか腕とか痛かったがそれを我慢して文句を口にしようとした瞬間。
がしゃん。
激しく無情な音がして、目をやれば、空いていたはずの鉄格子はしっかりと閉じられて。
その向こうに並び立つ一つ目の親父と大男。
「って、ええええっ!? ちょっと待っ…いきなり!? っていうかお約束だけど、何か違う!! オレはこういうお約束は嫌だーっ!!!!」
絶叫してみるが、その姿を一つ目の2人は一瞥くれただけで踵を返し去って行った。
思わず後を追うように、勢いよく立ち上がって鉄格子に突進すると、そこを掴んで両手に力を込める。
うんともすんとも言わなかった。
格子の継ぎ目がブレる音も、擦れる音も、何もない。
「えええ!? ちょっと待って! 何もナシ!? ていうかこういう時ってさ! もっとこう、何かあるだろーっ!!!!」
去り行く背中が振り返る事はなく。
そのまま2つの背中は階段を上っていった。
「おぉおおーぃっ!! 置いてかないでーっ!!」
声は空しく響き渡り。
返る言葉も声もなく。
琥珀は独り、薄暗い地下牢に取り残される。
その後、声の続く限り叫んでみたが、無駄な努力だと琥珀が理解したのは、いい感じに声が掠れてからだった。
そうしてから改めて肩を落として格子から離れると、奥の壁際―――前方の廊下が見えるような位置―――に腰を降ろして背を預ける。
「喉、痛い」
ぽつりと呟いてから、ごちっと背後の石壁に頭をつけて、双眸を伏せた。
さて、これからどうしよう。
内心そう呟いた瞬間、背筋に物凄い悪寒が走った。
慌てて左右を見回し、それから安堵の息を吐き出す。
「………琳ちゃん、怒ってるな」
悟りきった声を出してから、でも不可抗力だから、と呟いた。
それから琥珀は体育座りになると膝に顔を埋めて、疲れたなぁと呻くように口にする。
暫くそうしているうちに、自然と意識は薄れて行った。
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17 ところ変われば
「あーっ、暇だー! 出せーっ!! つーか、話し相手か、遊ぶもんよこせー!!!!」
絶叫する声は、いい感じに反響した。
じたばたしても始まらない、とはよく言ったものだが、それ以外にする事がなかった。
薄暗いこの部屋。
ぶっちゃけ、牢屋。
だって地下にある、しかも、通路側はきっちり鉄格子で他3面は石作りの壁。
魔王の手の者に捕らえられたお姫様―――もとい、琥珀は、暇で死にそうだった。
「うう、反応すらない………。誰かツッコミ募集ーっ!!」
空しい叫びだけがこだました。
何で琥珀がそんな状態になっているのか、状況は少し前まで遡る。
勿論、捕虜(?)なのだから、牢屋行きは当然至極の対応なのだろうが。
琳子を崖から突き落としてしまった―――知らなかったにしろ―――琥珀は、真っ青な顔で慌てて後を追おうとして、その場に崩れ落ちた。
躰が全く言う事を利かなくて、手足に力を入れてもピクリとも動かない。
頭を上げ様としても、上がらない。
ふぬぬぬっと踏ん張っているうちに、ひょい、と担がれた。
思わず叫んだが、それは声にすらならなくて、しっかりと非人間―――つまり魔族なのだが、捕獲されていた。
どうしようと焦る琥珀。動かない躰。そうこうしているうちに、ドラゴンの背にどさりと降ろされ、
「お、オレ、ドラゴンに乗ってるっ……!!」
歓喜に震えた。
それまでの全部を投げ捨てて、琥珀の意識はただ一点に注がれる。馬鹿だ。
そんな琥珀に上から、理解出来ない言葉で魔族が悔しげに呟き―――ドラゴンが羽ばたいた。
琥珀は再び感動である。
躰が動かないのが残念だった。
声が出ないのが悔しかった。
それでも、勢い付けて空へと舞い上がって―――――空だけだった視界に影というか、白いものが移りこんで、顔は動かないから限界ぎりぎりまで眼を走らせる。
白い人間!? とテンションが上がりかけたところで、その手に琳子の姿を認め、琥珀の顔から血の気が引いた。
元気だったら叫んでいただろう科白も声が出せないまま、その姿はあっと言う間に点になり、見えなくなる。
その瞬間、琥珀は本気で泣きそうになった。
むしろ涙を流していたのだが。
放置されたまま空を滑空し、涙も枯れるというか、諦めきった顔になった頃、ドラゴンは降下した。
半ば茫然としたまま、再び魔族に担がれてドラゴンを降りる。
琥珀の視界は、魔族の背中しか見えないのだが、彼の脳裏にあったのは1つだけだった。
それは壮大な危機感、そして恐怖。
(………り、琳ちゃんに、仕置きされる……っ!?)
自分がこの後どうなるのか、などという不安は全くなかった。
残念ながら。
そんなものを気にかける余裕など、彼には微塵も残されていなかった。
ただ、その念頭を支配していたのは―――――琳子に対する恐怖。
(こ、今回は不可抗力………には、ならないよな。だって崖から突き落として、助かったっぽぃけど、謝ってないし、そのまま別れたしっ………)
琥珀の躰は、動けなければ、声も出せないように、束縛の魔法がかけられていたのだが。
多分、そんなものがなくても、彼は微動だに出来なかったかもしれない。
(ご、ごめん。ごめんごめんごめんごめんっ………)
琥珀は、必死、むしろ決死の心で、聞こえないだろうが、琳子に謝り続けていた。
そうこうしている間に、琥珀を抱えた魔族は悠々とした足取りで、洋館、という表現の似合う、赴きある大きな館へと入って行く。
周囲の風景は全く見えないし―――見えたとしても―――一心不乱に土下座モードに突入しているため当然のように琥珀はそれに全く気付かなかった。
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「あーっ、暇だー! 出せーっ!! つーか、話し相手か、遊ぶもんよこせー!!!!」
絶叫する声は、いい感じに反響した。
じたばたしても始まらない、とはよく言ったものだが、それ以外にする事がなかった。
薄暗いこの部屋。
ぶっちゃけ、牢屋。
だって地下にある、しかも、通路側はきっちり鉄格子で他3面は石作りの壁。
魔王の手の者に捕らえられたお姫様―――もとい、琥珀は、暇で死にそうだった。
「うう、反応すらない………。誰かツッコミ募集ーっ!!」
空しい叫びだけがこだました。
何で琥珀がそんな状態になっているのか、状況は少し前まで遡る。
勿論、捕虜(?)なのだから、牢屋行きは当然至極の対応なのだろうが。
琳子を崖から突き落としてしまった―――知らなかったにしろ―――琥珀は、真っ青な顔で慌てて後を追おうとして、その場に崩れ落ちた。
躰が全く言う事を利かなくて、手足に力を入れてもピクリとも動かない。
頭を上げ様としても、上がらない。
ふぬぬぬっと踏ん張っているうちに、ひょい、と担がれた。
思わず叫んだが、それは声にすらならなくて、しっかりと非人間―――つまり魔族なのだが、捕獲されていた。
どうしようと焦る琥珀。動かない躰。そうこうしているうちに、ドラゴンの背にどさりと降ろされ、
「お、オレ、ドラゴンに乗ってるっ……!!」
歓喜に震えた。
それまでの全部を投げ捨てて、琥珀の意識はただ一点に注がれる。馬鹿だ。
そんな琥珀に上から、理解出来ない言葉で魔族が悔しげに呟き―――ドラゴンが羽ばたいた。
琥珀は再び感動である。
躰が動かないのが残念だった。
声が出ないのが悔しかった。
それでも、勢い付けて空へと舞い上がって―――――空だけだった視界に影というか、白いものが移りこんで、顔は動かないから限界ぎりぎりまで眼を走らせる。
白い人間!? とテンションが上がりかけたところで、その手に琳子の姿を認め、琥珀の顔から血の気が引いた。
元気だったら叫んでいただろう科白も声が出せないまま、その姿はあっと言う間に点になり、見えなくなる。
その瞬間、琥珀は本気で泣きそうになった。
むしろ涙を流していたのだが。
放置されたまま空を滑空し、涙も枯れるというか、諦めきった顔になった頃、ドラゴンは降下した。
半ば茫然としたまま、再び魔族に担がれてドラゴンを降りる。
琥珀の視界は、魔族の背中しか見えないのだが、彼の脳裏にあったのは1つだけだった。
それは壮大な危機感、そして恐怖。
(………り、琳ちゃんに、仕置きされる……っ!?)
自分がこの後どうなるのか、などという不安は全くなかった。
残念ながら。
そんなものを気にかける余裕など、彼には微塵も残されていなかった。
ただ、その念頭を支配していたのは―――――琳子に対する恐怖。
(こ、今回は不可抗力………には、ならないよな。だって崖から突き落として、助かったっぽぃけど、謝ってないし、そのまま別れたしっ………)
琥珀の躰は、動けなければ、声も出せないように、束縛の魔法がかけられていたのだが。
多分、そんなものがなくても、彼は微動だに出来なかったかもしれない。
(ご、ごめん。ごめんごめんごめんごめんっ………)
琥珀は、必死、むしろ決死の心で、聞こえないだろうが、琳子に謝り続けていた。
そうこうしている間に、琥珀を抱えた魔族は悠々とした足取りで、洋館、という表現の似合う、赴きある大きな館へと入って行く。
周囲の風景は全く見えないし―――見えたとしても―――一心不乱に土下座モードに突入しているため当然のように琥珀はそれに全く気付かなかった。
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