徒然なる、谺の戯言日記。
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11 “黒”
全部、思い出した―――。
それはつまり、コレは夢でもゲームでもなくって、間違いなく現実だという事。
思わず、頭を抱える。
「リンコ様…、やはり、どこか痛みますか?」
不安げにリエが聞いてくる。
正直言えば頭が痛い。現状に対して。
でも、それを言ったところでこの人達には意味を成さないし、何より、この現状を招いた張本人が目の前にいるんだから。
「大丈夫。ちょっと、頭の整理を付けてるだけ」
「そうですか…」
「許容をオーバーしてるけれど、言っても仕方ないから。とりあえず、現状を把握させて」
視線をラッセルへと向ける。
「もう一度確認していい?」
「…はい」
「本当に私が勇者なの? その、言いたくないけど……一緒にいた、琥珀という可能性は? 私、呼ばれた覚えも答えた覚えもないから」
けれど、琥珀ならありそうだ。
馬鹿正直に、呼ばれたら返事しそうだし。そもそも、どう呼びかけたかは知らないけれど、「勇者様、助けて下さい」なんて言われたら、琥珀だったら喜んで返事しそうだから。
「リンコ様で間違いありません」
しっかり、きっぱりと断言してくれました。
「どうしてそう言いきれるの? 二人って、可笑しいんでしょ?」
「はい。伝えによれば、確かに一人だけです」
「それなのに私だって言い切れるのはどうして? 文字だって完全に認識出来てないのに」
「リンコ様が黒髪黒眼だからです」
はい?
何、その答え。自信満々に言われても、黒髪なんて、日本人なら当たり前だし、別に珍しいものでもない。
「どうして髪と瞳の色で決めるのよ…」
「この世界では、基本的に、その二つの色に“黒”を持つ者は生まれません」
「え…?」
「“黒”は創造神にだけ赦された色なのです。全てのものが交じり合って生まれる色、それが“黒”です。つまり全てに通じる色であり、逆を言えば、全てがそこより生じた証だからです」
「いないって事?」
「基本的といったように、創造3柱の加護を受けてて生まれてきた者達は、髪ないし瞳、どちらかの色に“黒”を持ちます。決して“黒”を持つ者が生まれないわけではありません。唯一の例外として、魔王だけは、“黒”の髪と額に第三の眼をその証として持ちますが、通常の位置にある瞳は“黒”ではありません。つまり、髪と瞳、その両方に“黒”を持つ者は決して生まれないのです。その姿を持つのは、創造3柱が具現化した時のみです」
つまり、この世界で、髪と眼が“黒”ってのはイレギュラーって事で。
日本人が来たら、みんなイレギュラーじゃない…。
「って、待って。琥珀だって髪も眼も黒よ?」
「そうですか? 従者の方は、赤い髪をしていたと認識しておりますが」
「………そういえば」
そう、あのバカ。仮にも社長なんだから色をどうにかしろって言ったのに。
学生気分のまま、真っ赤な頭のままだった。
「あれ、染めてるだけなんだけど…?」
「髪の色を変える、というのはありますが、この世界において、その本質に通じる、加護を受けた色を変える事は出来ません」
「でも外から来た場合だと、例外って事にならない?」
「確かに、あの方がお一人で来ていればそうなるかもしれませんが。リンコ様は見事な漆黒の髪と瞳でいらっしゃいますから」
にこやかに断言されてしまいました。
隣でリエがコクコクと頷いてるし。
どうあっても、私が勇者説を考え直す気はないようだ。
「……そう」
深く息を吐き出しながら、頷く。
これはもう、言っても無駄だと自分自身に言い聞かせる。
言いたい事は山ほどあるけれど、こうなってしまったのでは仕方が無い。
強制だし、かなり不本意だけれど、諦めるしかない。
「わかった。最後に一つ、聞いていい?」
「はい、何なりと」
「私達は、帰れるの?」
その科白に、二人の時が止まる。
リエが何故か哀しそうな顔でこっちを見てるけれど、私としてはこれは聞いておかないといけない。
向こうでの、これまでの生活があるし、何より、会社の事が心配だから。
社長と秘書が揃って行方不明とかシャレにならないし、ヘンな噂が広まったりでもしたら私立ち直れないし。
……そういえば、トラックと事故ってたし。
あれ、どうなったんだろう?
無人の車にトラックが突っ込んだ、とかになってるのかな……うう有り得ない。私の愛車が。
「…ラッセル、でいいんだよね? どうなの?」
「結論だけを言えば、帰れます」
「すごく引っかかる言い方だけれど?」
「私達を助けて下さい」
「それは、つまり、そうするまでは、帰れない…というよりは、帰す気がないって事ね」
「申し訳ありません」
「もっと頼りになりそうな人を呼んだ方がいいと思うのだけれど」
「いいえ。私は、私達を助けて下さる方を願いました。結果、それに答えて来て下さったのが、リンコ様達なのです。今、私達にとって、尤も頼りになる方なのですよ」
「………それは、過去話に影響され過ぎというか、私を過大評価しているというか」
「そうですね。私にとっては遥かなる過去の話に過ぎません。しかし、エル様にとってはほんの少し前の話ですから、間違いはありません」
にこやかに、本当ににこやかに微笑んでラッセルはそう告げた。
何度か出てきている“エル様”というのが誰なのか気になるところだけれど、それ以上にラッセルの見た目の方が気になった。
その笑顔は病弱そうな外見とあいまって、何ていうか……実際は健康でかなり元気な人なんだろうけど、果てしなく気弱な男の沈痛な願い、にしか見えなかった。
……こういう男が宰相の任に付いてるのって、アレかな。見た目で相手の心理を揺さぶるためなんだろうか。
そんな不敬な事を考えてから、一つ息を吐き出す。
さて、覚悟を決め様。
これはもうやるしかない事、決定事項なのだ。
何のために呼ばれたのか、大国クレッセリオスに対して、という事だけれど、具体的にはまだ先の話のようで、よくはわからない。
わからないけれども……やるしかないのだ。その、勇者とやらを。
でなければ、私達は帰れない。
ああ、そうだ。
間抜けにも誘拐された―――私を庇ってのことだけれども、結果としては私を崖から突き落として攫われたのだから、間抜け以外に言いようがない琥珀を、助けに行かないといけない。
私独りで帰っても意味はないのだ。
琥珀も連れて帰らなければ。何より、お爺様に頼まれている事だし、あんなでも社長だし。
「…わかった。勇者、ね……かなり不本意だけど、要求を飲むわ」
二人の顔が途端に、嬉しそうなそれに変わった。
「ただし、一つだけ言わせて」
「「はい?」」
「私は特に何が出来るってわけじゃないから、本当に、期待はずれになると思う。けれど、一度やると決めたからには、私に出来る範囲で精一杯やらせて貰うから。…何ていうか、何もしてないのに言いたくないけれど、それでも結局役に立てなかったら、ごめんね」
肩を竦めた私に返ったのは、何故か満面の笑みだった。
「リンコ様、有り難うございます」
ラッセルが深々と頭を下げる。
「リンコ様、これから宜しくお願いしますね」
花を撒き散らせて、可愛らしくリエが続いた。
「こちらこそ、宜しく」
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全部、思い出した―――。
それはつまり、コレは夢でもゲームでもなくって、間違いなく現実だという事。
思わず、頭を抱える。
「リンコ様…、やはり、どこか痛みますか?」
不安げにリエが聞いてくる。
正直言えば頭が痛い。現状に対して。
でも、それを言ったところでこの人達には意味を成さないし、何より、この現状を招いた張本人が目の前にいるんだから。
「大丈夫。ちょっと、頭の整理を付けてるだけ」
「そうですか…」
「許容をオーバーしてるけれど、言っても仕方ないから。とりあえず、現状を把握させて」
視線をラッセルへと向ける。
「もう一度確認していい?」
「…はい」
「本当に私が勇者なの? その、言いたくないけど……一緒にいた、琥珀という可能性は? 私、呼ばれた覚えも答えた覚えもないから」
けれど、琥珀ならありそうだ。
馬鹿正直に、呼ばれたら返事しそうだし。そもそも、どう呼びかけたかは知らないけれど、「勇者様、助けて下さい」なんて言われたら、琥珀だったら喜んで返事しそうだから。
「リンコ様で間違いありません」
しっかり、きっぱりと断言してくれました。
「どうしてそう言いきれるの? 二人って、可笑しいんでしょ?」
「はい。伝えによれば、確かに一人だけです」
「それなのに私だって言い切れるのはどうして? 文字だって完全に認識出来てないのに」
「リンコ様が黒髪黒眼だからです」
はい?
何、その答え。自信満々に言われても、黒髪なんて、日本人なら当たり前だし、別に珍しいものでもない。
「どうして髪と瞳の色で決めるのよ…」
「この世界では、基本的に、その二つの色に“黒”を持つ者は生まれません」
「え…?」
「“黒”は創造神にだけ赦された色なのです。全てのものが交じり合って生まれる色、それが“黒”です。つまり全てに通じる色であり、逆を言えば、全てがそこより生じた証だからです」
「いないって事?」
「基本的といったように、創造3柱の加護を受けてて生まれてきた者達は、髪ないし瞳、どちらかの色に“黒”を持ちます。決して“黒”を持つ者が生まれないわけではありません。唯一の例外として、魔王だけは、“黒”の髪と額に第三の眼をその証として持ちますが、通常の位置にある瞳は“黒”ではありません。つまり、髪と瞳、その両方に“黒”を持つ者は決して生まれないのです。その姿を持つのは、創造3柱が具現化した時のみです」
つまり、この世界で、髪と眼が“黒”ってのはイレギュラーって事で。
日本人が来たら、みんなイレギュラーじゃない…。
「って、待って。琥珀だって髪も眼も黒よ?」
「そうですか? 従者の方は、赤い髪をしていたと認識しておりますが」
「………そういえば」
そう、あのバカ。仮にも社長なんだから色をどうにかしろって言ったのに。
学生気分のまま、真っ赤な頭のままだった。
「あれ、染めてるだけなんだけど…?」
「髪の色を変える、というのはありますが、この世界において、その本質に通じる、加護を受けた色を変える事は出来ません」
「でも外から来た場合だと、例外って事にならない?」
「確かに、あの方がお一人で来ていればそうなるかもしれませんが。リンコ様は見事な漆黒の髪と瞳でいらっしゃいますから」
にこやかに断言されてしまいました。
隣でリエがコクコクと頷いてるし。
どうあっても、私が勇者説を考え直す気はないようだ。
「……そう」
深く息を吐き出しながら、頷く。
これはもう、言っても無駄だと自分自身に言い聞かせる。
言いたい事は山ほどあるけれど、こうなってしまったのでは仕方が無い。
強制だし、かなり不本意だけれど、諦めるしかない。
「わかった。最後に一つ、聞いていい?」
「はい、何なりと」
「私達は、帰れるの?」
その科白に、二人の時が止まる。
リエが何故か哀しそうな顔でこっちを見てるけれど、私としてはこれは聞いておかないといけない。
向こうでの、これまでの生活があるし、何より、会社の事が心配だから。
社長と秘書が揃って行方不明とかシャレにならないし、ヘンな噂が広まったりでもしたら私立ち直れないし。
……そういえば、トラックと事故ってたし。
あれ、どうなったんだろう?
無人の車にトラックが突っ込んだ、とかになってるのかな……うう有り得ない。私の愛車が。
「…ラッセル、でいいんだよね? どうなの?」
「結論だけを言えば、帰れます」
「すごく引っかかる言い方だけれど?」
「私達を助けて下さい」
「それは、つまり、そうするまでは、帰れない…というよりは、帰す気がないって事ね」
「申し訳ありません」
「もっと頼りになりそうな人を呼んだ方がいいと思うのだけれど」
「いいえ。私は、私達を助けて下さる方を願いました。結果、それに答えて来て下さったのが、リンコ様達なのです。今、私達にとって、尤も頼りになる方なのですよ」
「………それは、過去話に影響され過ぎというか、私を過大評価しているというか」
「そうですね。私にとっては遥かなる過去の話に過ぎません。しかし、エル様にとってはほんの少し前の話ですから、間違いはありません」
にこやかに、本当ににこやかに微笑んでラッセルはそう告げた。
何度か出てきている“エル様”というのが誰なのか気になるところだけれど、それ以上にラッセルの見た目の方が気になった。
その笑顔は病弱そうな外見とあいまって、何ていうか……実際は健康でかなり元気な人なんだろうけど、果てしなく気弱な男の沈痛な願い、にしか見えなかった。
……こういう男が宰相の任に付いてるのって、アレかな。見た目で相手の心理を揺さぶるためなんだろうか。
そんな不敬な事を考えてから、一つ息を吐き出す。
さて、覚悟を決め様。
これはもうやるしかない事、決定事項なのだ。
何のために呼ばれたのか、大国クレッセリオスに対して、という事だけれど、具体的にはまだ先の話のようで、よくはわからない。
わからないけれども……やるしかないのだ。その、勇者とやらを。
でなければ、私達は帰れない。
ああ、そうだ。
間抜けにも誘拐された―――私を庇ってのことだけれども、結果としては私を崖から突き落として攫われたのだから、間抜け以外に言いようがない琥珀を、助けに行かないといけない。
私独りで帰っても意味はないのだ。
琥珀も連れて帰らなければ。何より、お爺様に頼まれている事だし、あんなでも社長だし。
「…わかった。勇者、ね……かなり不本意だけど、要求を飲むわ」
二人の顔が途端に、嬉しそうなそれに変わった。
「ただし、一つだけ言わせて」
「「はい?」」
「私は特に何が出来るってわけじゃないから、本当に、期待はずれになると思う。けれど、一度やると決めたからには、私に出来る範囲で精一杯やらせて貰うから。…何ていうか、何もしてないのに言いたくないけれど、それでも結局役に立てなかったら、ごめんね」
肩を竦めた私に返ったのは、何故か満面の笑みだった。
「リンコ様、有り難うございます」
ラッセルが深々と頭を下げる。
「リンコ様、これから宜しくお願いしますね」
花を撒き散らせて、可愛らしくリエが続いた。
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