徒然なる、谺の戯言日記。
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12 急転直下
儀礼的だけれど、挨拶を済ませて。
笑顔の二人を前に、私はとても――自分にとって――重要な事を思い出した。
「―――後、今更言う事でもないだろうけど、勇者って呼ぶのは止めてね。周りに不必要に広めるのも」
「ええ、そこは重々に。お役目名だけでずっとお呼びするのは、失礼に値しますから」
「…リンコ様。でも、内緒にしてても、色でわかっちゃうと思います」
リエの暢気な科白に、場が硬直する。
「リ、リエ、それは……言ってはダメではないですか。せっかくリンコ様がやる気になって下さったのに」
青白い顔を、更に青褪めさせてラッセルが呟く。
何だか目眩を覚えている風に見えるのは、外見のせいだけじゃないだろう。
私も同じ気分だし。
「…何か、被るモノとかないかな? 帽子とかフードとか。せめて髪の色だけでも誤魔化せれば……片方だけなら、ありえるんでしょ?」
「リンコ様、服でもわかっちゃいますよ? 着替えないと」
にこにこと、リエ。
そうか、確かにそうだね。私のこの格好では、確かに目立つ。明らかに外から―――国外、という意味でなくて―――来た人だろうから。
ラッセルの顔色が更に悪くなっている気がするけれど、そこはスルー。
この人の外見を気にしてはいけない。琥珀と同じだね、気にしたら負ける。
精神的に。
「ですから、私がリンコ様に似合いそうなお洋服をご用意させて頂きますね!」
ガッツポーズを決めて、すっごく嬉しそうに宣言しました。
何でそんなにやる気なんだろう、このコ。
勇者の傍仕えってそんなに名誉あるのかな……うん、確かに話に聞いただけだと、凄い事みたいだけれど。
それでもリエの表情とか雰囲気は、何だか大げさ過ぎるように見えるのは私が彼女をよく知らないからであって、コレが地なんだろうか…。
浮き沈みの激しい、色見本みたいなコだな。
琥珀みたい。
……いや、話を聞いてくれる分、琥珀よりはマシかもしれない。
「……なるべく、目立たないのをお願いね」
「はいっ! リンコ様、好きな色とかありますか?」
「特にないけど……派手な色は余り好きじゃないかな。落ち着く色がいいかも。強いて言うなら、部屋のカーテンくらいの色とか」
「そうですかぁ」
途端に残念そうな顔になりました。
一体どんな服を想像してくれちゃってたんでしょう、このコ。少しだけ、不安が…。
私も似たような顔を多分しているのだろう―――、苦笑いのラッセルが、リエと私を交互に見つめてから、私に向かい一礼する。
「そ、それでは。リンコ様、私は失礼させて頂きま―――」
どっがぁんっ。
続く地響き。というか、地震?
それだとさっきの音が証明できない、かな…?
「…何?」
揺れが収まってから聞いてみる。
二人は何とか体勢を維持したようで、私の声に、困ったように顔を見合わせる。
「多分、いつものアレかと」
「アレ?」
「魔族の方が魔法を撃ってるんじゃないかなと思います」
「建物に対してだけですので」
「何でそんなに冷静なの…?」
激しく目眩を覚える。
これだけ揺れているのに、気にしないってかなり問題ではなかろうか?
「ここは、ああいった攻撃を受けても何ともないので」
「王城を囲むように神殿があるので、守りが行き届いているので、少し揺れるくらいですから」
暢気な声が二つ返った。
なるほど、そういう事ね。納得出来ないけれど、納得するしかない。
私の常識は、この世界ではどうやら通用しないらしいから。
尤も、一番の疑問点は、王城を囲む神殿、に尽きるのだけれど。
ファンタジーにはある話かもしれないけれど、普通は、逆のような気がするんだけれども…?
「…そう、それで、いつものアレ、なのね」
「「はい」」
困ったような返事が二つ返り、再び、轟音と地響き、当然のように揺れる。
さきほどよりも激しく。
すってん、とリエが尻餅を付いた。
「大丈夫?」
「あ、はい…なれてますから」
「……そう」
照れ笑いを浮かべるリエを助け起こしながら、苦笑いを返す。慣れてるって、いつも転んでるのね。
……っていうか。
私の気のせいじゃなければ、何か違う音も混じってるような気が? ―――じゃない。
何で、こんな情況を放置してるのよ!
「やっぱり可笑しいから!!」
「「はぃい??」」
「こんなのほおって置いていいわけないでしょ!」
「しかし、国民に被害は 「五月蝿い! そういう問題じゃないの!! 国民に被害は出てなかろうと、家に被害は出てなかろうと、攻撃されてる事実にはかわりないんだから、放っておくのは可笑しいわよっ!!」
ラッセルの科白を遮って一思いに叫ぶ。
……何でかな、リエ? どうしてそんなキラキラした乙女みたいな顔してるの? いや、実際乙女なんだけれども。しかも可愛い。でも、何かな、何か違うような気がするのは私の気のせい?
「とにかく、可笑しいよ、コレ。それに、城に攻撃されてるっていうけど、何か違う音も聞こえるし」
「音、ですか?」
「別に何も聞こえないですよ?」
二人は互いの顔を見合わせるように、疑問符を投げかける。
「耳が悪いんじゃ―――って、待ちなさい! 何が国民に被害が出てないよ!!」
聞こえた。確かに、聞こえた。
耳が悪いんじゃないって言おうとした私の耳には、確かに。
叫び声が。
慌てて走り出す。
ああ、もう。天蓋付きのベットなんて邪魔なだけじゃない。布団だったら飛び越えれば済むのに。
私の突然の行動に、二人は驚いたように固まるだけだったけれど、気にしてる余裕はない。
あの声、凄く切羽詰った感があった。
薄手の白いカーテンを払い、その向こうにあった窓を―――開いてる、から、そのまま走り抜けて。
ベランダ? テラスって言った方が雰囲気に合う気がするけれど、直線距離にして約10メートル…って無駄に広い、ここ。無駄が多い、無駄が。
「あの向こう、か」
声がするのは、その先。
柵? 塀? どちらでもいい。とにかく、その向こうから聞こえるのだ。
ざっと、眼で確認。その高さ、多分、1メートル50センチ程度。―――いける。
「リンコ様っ、危ないです!!」
リエの悲鳴にも似た声が背後から聞こえたけれど、気にする余裕はない。
というか、大丈夫。心配ご無用。
あのくらいの高さなら、助走があれば飛び越えられるのは経験済み。……したくしてした経験ではないけれども。
勢い付いたまま、走り、飛び上がり、縁に手をかけてその向こうへと身を翻し―――
「なっ…!!」
私の視界に広がったのは、長々と続く城壁にも似た、建物と、遥か下方に見える地上だった。
その距離、推定50メートル、多分きっと。
これは死んだかもと思うよりも先に、私の目は哀しい事に、見覚えのあるドラゴンと、その背に乗った非人間と、それを前にして叫び声を上げている女の人を捕らえていた。
助けるどころか、私が死にそう……。
そう思いながら、無情にも、重力に従い、私は落ちた。
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儀礼的だけれど、挨拶を済ませて。
笑顔の二人を前に、私はとても――自分にとって――重要な事を思い出した。
「―――後、今更言う事でもないだろうけど、勇者って呼ぶのは止めてね。周りに不必要に広めるのも」
「ええ、そこは重々に。お役目名だけでずっとお呼びするのは、失礼に値しますから」
「…リンコ様。でも、内緒にしてても、色でわかっちゃうと思います」
リエの暢気な科白に、場が硬直する。
「リ、リエ、それは……言ってはダメではないですか。せっかくリンコ様がやる気になって下さったのに」
青白い顔を、更に青褪めさせてラッセルが呟く。
何だか目眩を覚えている風に見えるのは、外見のせいだけじゃないだろう。
私も同じ気分だし。
「…何か、被るモノとかないかな? 帽子とかフードとか。せめて髪の色だけでも誤魔化せれば……片方だけなら、ありえるんでしょ?」
「リンコ様、服でもわかっちゃいますよ? 着替えないと」
にこにこと、リエ。
そうか、確かにそうだね。私のこの格好では、確かに目立つ。明らかに外から―――国外、という意味でなくて―――来た人だろうから。
ラッセルの顔色が更に悪くなっている気がするけれど、そこはスルー。
この人の外見を気にしてはいけない。琥珀と同じだね、気にしたら負ける。
精神的に。
「ですから、私がリンコ様に似合いそうなお洋服をご用意させて頂きますね!」
ガッツポーズを決めて、すっごく嬉しそうに宣言しました。
何でそんなにやる気なんだろう、このコ。
勇者の傍仕えってそんなに名誉あるのかな……うん、確かに話に聞いただけだと、凄い事みたいだけれど。
それでもリエの表情とか雰囲気は、何だか大げさ過ぎるように見えるのは私が彼女をよく知らないからであって、コレが地なんだろうか…。
浮き沈みの激しい、色見本みたいなコだな。
琥珀みたい。
……いや、話を聞いてくれる分、琥珀よりはマシかもしれない。
「……なるべく、目立たないのをお願いね」
「はいっ! リンコ様、好きな色とかありますか?」
「特にないけど……派手な色は余り好きじゃないかな。落ち着く色がいいかも。強いて言うなら、部屋のカーテンくらいの色とか」
「そうですかぁ」
途端に残念そうな顔になりました。
一体どんな服を想像してくれちゃってたんでしょう、このコ。少しだけ、不安が…。
私も似たような顔を多分しているのだろう―――、苦笑いのラッセルが、リエと私を交互に見つめてから、私に向かい一礼する。
「そ、それでは。リンコ様、私は失礼させて頂きま―――」
どっがぁんっ。
続く地響き。というか、地震?
それだとさっきの音が証明できない、かな…?
「…何?」
揺れが収まってから聞いてみる。
二人は何とか体勢を維持したようで、私の声に、困ったように顔を見合わせる。
「多分、いつものアレかと」
「アレ?」
「魔族の方が魔法を撃ってるんじゃないかなと思います」
「建物に対してだけですので」
「何でそんなに冷静なの…?」
激しく目眩を覚える。
これだけ揺れているのに、気にしないってかなり問題ではなかろうか?
「ここは、ああいった攻撃を受けても何ともないので」
「王城を囲むように神殿があるので、守りが行き届いているので、少し揺れるくらいですから」
暢気な声が二つ返った。
なるほど、そういう事ね。納得出来ないけれど、納得するしかない。
私の常識は、この世界ではどうやら通用しないらしいから。
尤も、一番の疑問点は、王城を囲む神殿、に尽きるのだけれど。
ファンタジーにはある話かもしれないけれど、普通は、逆のような気がするんだけれども…?
「…そう、それで、いつものアレ、なのね」
「「はい」」
困ったような返事が二つ返り、再び、轟音と地響き、当然のように揺れる。
さきほどよりも激しく。
すってん、とリエが尻餅を付いた。
「大丈夫?」
「あ、はい…なれてますから」
「……そう」
照れ笑いを浮かべるリエを助け起こしながら、苦笑いを返す。慣れてるって、いつも転んでるのね。
……っていうか。
私の気のせいじゃなければ、何か違う音も混じってるような気が? ―――じゃない。
何で、こんな情況を放置してるのよ!
「やっぱり可笑しいから!!」
「「はぃい??」」
「こんなのほおって置いていいわけないでしょ!」
「しかし、国民に被害は 「五月蝿い! そういう問題じゃないの!! 国民に被害は出てなかろうと、家に被害は出てなかろうと、攻撃されてる事実にはかわりないんだから、放っておくのは可笑しいわよっ!!」
ラッセルの科白を遮って一思いに叫ぶ。
……何でかな、リエ? どうしてそんなキラキラした乙女みたいな顔してるの? いや、実際乙女なんだけれども。しかも可愛い。でも、何かな、何か違うような気がするのは私の気のせい?
「とにかく、可笑しいよ、コレ。それに、城に攻撃されてるっていうけど、何か違う音も聞こえるし」
「音、ですか?」
「別に何も聞こえないですよ?」
二人は互いの顔を見合わせるように、疑問符を投げかける。
「耳が悪いんじゃ―――って、待ちなさい! 何が国民に被害が出てないよ!!」
聞こえた。確かに、聞こえた。
耳が悪いんじゃないって言おうとした私の耳には、確かに。
叫び声が。
慌てて走り出す。
ああ、もう。天蓋付きのベットなんて邪魔なだけじゃない。布団だったら飛び越えれば済むのに。
私の突然の行動に、二人は驚いたように固まるだけだったけれど、気にしてる余裕はない。
あの声、凄く切羽詰った感があった。
薄手の白いカーテンを払い、その向こうにあった窓を―――開いてる、から、そのまま走り抜けて。
ベランダ? テラスって言った方が雰囲気に合う気がするけれど、直線距離にして約10メートル…って無駄に広い、ここ。無駄が多い、無駄が。
「あの向こう、か」
声がするのは、その先。
柵? 塀? どちらでもいい。とにかく、その向こうから聞こえるのだ。
ざっと、眼で確認。その高さ、多分、1メートル50センチ程度。―――いける。
「リンコ様っ、危ないです!!」
リエの悲鳴にも似た声が背後から聞こえたけれど、気にする余裕はない。
というか、大丈夫。心配ご無用。
あのくらいの高さなら、助走があれば飛び越えられるのは経験済み。……したくしてした経験ではないけれども。
勢い付いたまま、走り、飛び上がり、縁に手をかけてその向こうへと身を翻し―――
「なっ…!!」
私の視界に広がったのは、長々と続く城壁にも似た、建物と、遥か下方に見える地上だった。
その距離、推定50メートル、多分きっと。
これは死んだかもと思うよりも先に、私の目は哀しい事に、見覚えのあるドラゴンと、その背に乗った非人間と、それを前にして叫び声を上げている女の人を捕らえていた。
助けるどころか、私が死にそう……。
そう思いながら、無情にも、重力に従い、私は落ちた。
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